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アートを『観る』と『買う』は全然違った。人生で初めて絵を買った話

私は小学生からずっと、書きたい日に日記を書いている。
2020年を振り返るとすれば、この日のために日記帳3ページを費やした、間違いなく私自身の何かを変化させた出来事のことを書きたい。


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9月某日、私は品川で開催されたあるアートフェアにいた。
目的は、絵を買うこと、ではない。
日本画家の妹がいる私は、面白い展示方法や売り方のアイディア欲しさに、軽い気持ちで一人、そこにいた。

既に超有名画家の作品を掲げている有名画廊がゴロゴロ出展していた。
来場客も小綺麗な服に身を纏う。自分が場違いな気がして少し気後れする。。

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そんな中、一角の展示スペースが気になった。
名前の知らない作家さんの作品が3面の壁にかけられ、中央には複数の錆びた鉄の台がそびえ、台の上にも作品が飾られていた。

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面白い展示の仕方だな〜と思った。

一回通り過ぎてみたけど、やっぱり気になる。
思い切って中まで入ってみた。いかにもお金持ってなさそうな若造なので、声をかけられないだろうとの判断だ。

正直言って私は、絵を前にしてどんな会話をしていいかわからなかった
哲学的な話しとか、難しいことを言わねば、と謎の先入観を持っていたから、その絵を観てどう思うか、とか聞かないでくれ……と心の中では思っていた。


ひとつの作品の前にいると、意外にもすぐ、画商らしき男性に声をかけられた。面白い作品ですよね、と。ちょっと焦る。

そして彼は一通り作家の紹介をすると、画廊のオーナーという女性を紹介してくれた。
私が展示の仕方が面白い!というと、彼女が全部やったんだよ、と教えてくれたのだ。
名前はKさん。綺麗なお名前の方だ。

彼女は全身黒い服装だったが、とても美しく見えた。なんか、展示されている作品たちと相乗効果があるような……
すごくエネルギッシュな人だ。

作品を前にして、作品についての会話が始まってしまった。
でもどうだろう、自然と会話が弾んだ。
作品の中にアーチのようなものがあるのだけど、入口に見えるか、出口に見えるか、とか、この作品のココが好き、とか、陽と陰どっちに見えるか、とか、とにかく率直に、あまり考えずに会話ができた

すると、Kさんが私に

「あなた、これ買いなさいよ!」

と言ったのだ。驚いた。お値段7万円。高い。そもそも私は、絵を買う、という概念がなかった。
いや、絵は大好きでよく美術館やギャラリーで観るのだけど、それで満足だった。絵を買う必要性をあまり感じていなかったのだ。好きな作家さんの絵だったらまだしも、知らない作家さんの絵なんて……

「いや、」と言いかけたが、一瞬、自分の心がストップをかけた。
買ってみるのも、もしかしたら面白いのかも?なにか新しい扉を開けるかも?

この作品のアーチが、入り口に見えてきた……


29歳の年、20代最後のこのタイミングで、初めて絵を買うということに、なにか意味があるかもしれない、と思った。
一方で、イヤイヤ、前向きに意味づけしすぎだぞ、とも思った。

悩んだ時間はおよそ10分、ないくらい。長いような短いような時間の中で、好きな絵を買ったことがある人生、好きな絵が家にある生活、いろいろなことを考えた。

絶対買った方が楽しい人生になる!経験だ!(最悪、間違ったと思ったら売れる!)


クレジットカード2回払いで購入した。

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日を経て、画廊まで作品を迎えに行った。
銀座の奥野ビル、というと知っている人も多いと思うが、昭和初期に建てられた古いビルで、1階から6階まで芸術関連のショップやギャラリーがひしめき合っている、とても面白い建物にその画廊はある。

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Kさんはちょうど次の日から始まる展覧会の準備がひと段落したところだった。
Kさんから作品を優しく受け取り大事に抱え出た。なんだろう、すごく大切なものを連れて帰る使命感で銀座の人混みを避け一目散に地下鉄に向かい、家に帰った。


作品を包みから出すときの高揚感たるや。
真っ白な作品なので、そんなに存在感はないだろうと思っていたが、壁にかけた途端、部屋の密度が高まったし、絵がすごくこちらを見ている気がした!!

めちゃくちゃ存在感がある。


最初は、常に見えるところに飾って、パワーをもらおうと思ったのだが、そうするとパワーがありすぎる気がした。なので、背後の壁にかけ、見たいときに見れるような距離感にした。

この、作品との距離感というものは、初めて考えたことだった。作品やそのときの自分の状態によって、適切な距離感があるのだろう。

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何度か、作品に問いかけられているような感覚になったことがある。

例えば、今日はコンビニでお弁当買ってこようかな、、と思ったとき、いや、冷蔵庫に野菜と肉が残ってるぞ。私はどんな生き方がしたいんだっけ?と。ちょっと大袈裟だが、まさにそんな感じで、絵を見ると私自身に問いかけ、考えることができたのだ。


あと、有名な作家・作品だからイイ、ではないのだ、と身を持って感じた。

今回購入した作家さんは”高島進さん”と言って、繊細で美しいスタイルを保ちながら技法を変えたりして作品を作り続けており、これから台湾での展覧会も予定しているそうだ。
私は彼の名前を知らなかったが、私は彼の作品を好きだと思った。

自分が色々な目線で好きだと思い、価値を見出せること、語れるようになること

これがイイし、楽しいんだな、と思う。

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今ではもう、その作品がウチにあることが当たり前になっている。
太陽の入り方なんかでとても美しく見える日があるし、眺めていたい日と、そうでない日があったりする。
ひとつ言えるのは、絵を買うという体験は、私にとってとても価値のある経験だったということだ。

必要性は感じていなかったけど、価値はあった。


それも今年、家にいる時間がかなり増えたこのタイミングで買ったことにも意味はあったのかもしれない。

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