見出し画像

パジャマ姿のお爺さんと母

今日の話は、私が小学校6年生の頃。

母は、夕食の買い物に行ったはずだった。
夕食の材料と共に、裸足でパジャマ姿のお爺さんがやってきた。

なぜか、母と手を繋いで家に帰ってきた。

「今度は、お爺さんか…」と思った。
確か、前は学校から帰ると迷子の女の子が家にいた。
(※気になる方は『梅雨の晴れ間と母』をお読みください)

ーーー

「こんばんは」
普通に挨拶する私と弟。
今思えば、それも変な話だが、
知らない人が家にいることが日常に溢れている家だったので、
誰も驚かない。

数年前まで祖父の介護を経験していた私達は、慣れていたのもある。

「タオル濡らして持ってきて!裸足で足が汚れてる!」
と母が言う。

「ほんまや!もうお風呂場で洗った方が早いんちゃう?」
と私が言う。

弟が持ってきたタオルでお爺さんの足を軽く拭いてから、
弟と2人、お風呂場で見知らぬお爺さんの足を洗った。

「大丈夫?熱くない?」
そう尋ねても、お爺さんは何にも話さない。
さっきから、何を聞いても反応がない。
きっと認知症があって、徘徊しているんだろう。

祖父も認知症だった。

徘徊:徘徊とは認知症の「周辺症状」と呼ばれる症状の1つで、家の中だけでなく外に出て、あてもなくうろうろと歩きまわる行動のこと。

足を洗おうとした時、
足首に名前のついたネームバンドが付いていることを発見した。

名前の下に
〇〇病院〇〇病棟と書いている。

「お母さん!この人、入院してるみたい!病院に電話しなあかんのちゃう?」

母は、父親のサンダルを探していた。

〇〇病院は、
私が歩いて20分位の場所にある総合病院だった。

「あったあった!これ履いてもらおう」
母は、父親が以前に履いていたサンダルを無事に探し出し、玄関に並べていた。

「〇〇病院に入院してるみたい。病院に電話しなあかんのちゃう?」
私は、母に電話を促した。

足を洗い終わったお爺さんは、椅子に座っている。

「おじいちゃん、野球見る?」
と、弟がお爺さんとテレビを見始めている。

「それは大変!心配してはるな。すぐに電話しなあかん」
母は〇〇病院の電話番号を調べ始めた。
確かその当時は、黄色のタウンページで調べていた気がする。笑

私は夕食の材料が入ったスーパーの袋をあさってみた。
「お腹空いたな。夜ご飯はできてないから、3人でこれでも食べよう」
そう言って、母が買ってきたポッキーを開けた。
私と弟がポッキーを食べ始め、お爺さんの前に袋を差し出すと、
無反応だったお爺さんがポッキーに手を伸ばした。
お茶とポッキーという微妙な組み合わせで、
3人で野球を観ていた。

今思えば、ありえない。
子供はどんな状況でも受け入れる力を持っているのだと思う。

「〇〇病院に入院してはったわ。お母さん、ちょっと送ってくるわ。
歩くの大変やんな?タクシー呼ぼか」

後から聞いた話によると、
警察に連絡して、送ってもらうようにする手配をしてくれるという話を断って、
母が家から近いから送りますと言ったらしい。

本当にお節介おばさんだ。

しかも、タクシーを呼ぶんかい!
この貧しい生活の中!

とは、誰も思わないのが不思議だ。

「その方がいいと思う」
私も弟も同感だった。

ーーー


「ちょっと遅くなるかもしれないけど、よろしくね!
もし、お父さんが帰ってきたら、ちゃんと説明しといてな」

母はパジャマ姿のお爺さんとタクシーに乗り込んで行った。
私と弟は、玄関で2人の乗るタクシーを見送った。
時間は20時のこと。

「早く元気になるといいね」
家に入って弟と話しながら、ポッキーの残りを食べた。

「これ、残りあげたらよかったな」
と、2人で笑った。

その日の夜ご飯は21時を過ぎた。
小学生が夕食を食べる時間ではない。
そして、父は何も知らない。笑

ーーー

看護師になってから、
お爺さんにポッキーを食べさせたのは、なかなかチャレンジャーだったと思う。
何も起こらなくて良かった。


後日。
学校から帰ると、我が家に似つかわしくない高級なお菓子があった。
お爺さんのご家族が、挨拶に来られたらしい。

母と弟と私。
3人で頂いたお菓子を食べた。

「あのサンダルな、
ずっと履いたまま脱いでくれへんから持って来れへんかってんて。
また、お返しに来ますって言われたから、もう処分して下さいって言うたわ」
と母が言う。

「あのサンダルは履いてもらえて嬉しいやろ」
「確かに、もはやいらんな」
と3人で笑った。

大人になってから、我が家は変な家だったと思う。
そして、
お節介おばさんな母が、私は結構好きなんだと思う。

ふじこ

『梅雨の晴れ間と母』
https://note.com/preview/nb41717880db1?prev_access_key=978d918e531324bb0c9b489bc37492cc


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?