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ジャンケンホイ。

ある日の病院でのできごと。

岡崎さん(仮名)は、80代の男性。

認知機能の低下があり、あまり話をされない。
車椅子で自走し、
病棟の廊下やナースステーションの中をウロウロされている。

私は、ナースステーションの中で、
カルテ記入のためにパソコンに向かっていた。

すると、
岡崎さんが、そっと、私の目の前に右手を差し出してきた。
そして、
その右手を上下に、ぶんぶんと2回振った。

私は、カルテを打つ手をとめて、
「ジャンケンするの?」と、聞いた。

普段は無表情の岡崎さんが、少しニヤッと笑う。


「じゃあ、いくよ!
最初はグー、ジャンケンホイ!」

岡崎さんは、チョキを出す。

ご飯を食べる時と、車椅子で自走している時以外は、
ほとんど動こうとしない岡崎さん。

ジャンケンに誘ってくれたのが、とても嬉しかった。


ジャンケンの勝負は、グーを出した私の勝ち。


「岡崎さん、あっち向いてホイもできる?」

岡崎さんは、無言で少し笑う。


「じゃあ、いくよ!
最初はグー、ジャンケンホイ!」

また、私の勝ち。

「あっち向いてホイ!」

岡崎さんは、かすかに右を向いた。

入院した時には、ほとんど寝たきりだった岡崎さん。
体はカチコチで、首もほとんど動かない。

リハビリにも、あまり積極的に参加はできていない。

そんな岡崎さんが、かすかに右を向いた。


私達が、あっち向いてホイ!で遊んでいると、
周りには、他のスタッフや医師が集まってきた。

みんな、私達の「あっち向いてホイ!」を見て、ケラケラと笑っている。

「岡崎さん、負けてばっかりやん!」
「ふじこが、アホやからやな!」
「おっ!しっかり首動いてるやん!」

そんな声が聞こえてきた。


岡崎さんも、スタッフも、みんな笑っている。

あぁ、楽しいな。
あぁ、本当に楽しいな。

こんな時間が大好きだから、どうにもここは離れがたい。

ふじこ


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