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暮らしていく街から暮らしている街へ

伊東市や伊豆地区などの特産品を集めた物産展「めちゃくちゃ市」へと向かう。毎年1月に行われていて、行くのはこれで2回目。昨年来た時はまだ移住したばかりの頃で、あれから1年経ったのだと実感。季節がぐるっと一周回り、同じ冬がやってきた。だけど、同じ冬でもあの時とは違う季節のように感じる。1年前までは知らない景色しかなく、知り合いもいなかった。それから移り変わっていく季節と共に景色を覚え、名前を呼んでくれる知り合いも増え、暮らしていく街ではなく暮らしている街となった。ここは前の冬よりもほんのり暖かく感じる。


めちゃくちゃ市にはおいしそうなブースがたくさん並んでいて、つい目移りしてしまう。そこへちょうど小野市長さんがいらっしゃっていたのでご挨拶したら覚えてくださっていた。新井はどうですか?と聞かれ、もう最高です!と伝えた。(語彙力皆無)

とりあえず、アシタカ牛コロッケとみしまコロッケをいただくことに。列へ並ぶと、前に並んでいる人が何かを頬張っている。私も早く食べたいなあ~なんて思いながら見ていると、そこへ突然大きな何かが突撃してきた。その人の手に食べ物はなく、地面には入っていた袋だけがヒラヒラと舞っている。トンビに狩られたのだった。たくさんの人間が集まっている列の中へ突っ込んでいき、ピンポイントで食べ物だけを狙い、瞬きする間もなく一瞬で獲っていく様はまさにプロ。私も以前、堤防でパンを食べている時に獲られたことがあるけれど、誰かが獲られているのを見るのは初めてだった。これは狙われたら絶対に回避できない。早すぎて見えないし、上空からなんて不意打ちすぎる。食物連鎖の頂点に立つ人間は、他の動物から直接食べ物を奪われる体験をあまりしないため、かなりの衝撃とショックを受ける。弱き者に為す術なし、という弱肉強食を味わえる貴重な体験。


私は狙われることなく無事にコロッケを完食し、おかずの次はご飯だということで、いとう漁業協同組合のさざえ飯とつみれ汁の列へと並ぶ。ちょうどご飯が炊き上がったタイミングで並ぶことができ、自分の後は長蛇の列となっていた。ラッキー!先ほどトンビの素晴らしいハンターぶりを目撃してしまったため安心して食べられないと思い、屋根のある場所へと移動。トンビの視力は人間の約8倍あるらしく、おそらく食べ物とそうじゃない物を学習し、把握されてしまっているのだろう。

2つ合わせて500円。出汁が効いてて最高においしかった。


会場のすぐ横にある河川敷では、トンビが群れを成して飛び回っていた。今日はめちゃくちゃ市だぞ!と、みんなでスケジュールを合わせてやって来たのかと思うほどの数。警備のおじさんはお昼ご飯のおにぎりを獲られてしまったらしい。さらに、隣に座っているカップルのコロッケも獲られていった。この場所はトンビたちにとって食べ放題コースみたいなものだろう。めちゃくちゃ市はめちゃくちゃトンビ市にもなっていたのだった…(笑)

全部トンビ。


ご近所さんにいただいたキンカンをマーマレードにするためにレモンを買わなくちゃと思っていたさなか、下田の無農薬レモンが売られていた。これはちょうどいい。レモンを手に取ろうとすると、もう1個おまけであげるよ~と言われた。スーパーで国産レモンを買おうとするとわりと高い。なのに2個入り100円で、さらにもう1個付いてくるなんて破格すぎる。

昨年、竹の花瓶を購入したブースが今年も出店していた。食べ物はお腹の中へと消えてしまうため何かお土産がほしいと思い、今年は竹の小物入れを買うことに。いくらですか?と聞くと、300円というこれまた驚きの価格。竹の湯呑みも同じく300円だったため、両方買うことにした。

誰かが作った、この世界に1つしか存在しない物は、大量生産型の商品が溢れている社会では貴重だ。大量生産かつハイクオリティーに対して、1つずつしか生産できない手作りにできることは何だろうと、日々自分へ問いかけている。人間にしかできないことはどんどん減っているし、きっとこの先も減り続けていくのだろう。イラストの作成依頼があった時に、その内容ならフリー素材やAIでいいじゃんと思い断ったことがある。実は絵描きの私ですら、そういった類いのものを使うのだ。

では、人間にできることは一体何が残されるのか考えてみると、私は役に立たないことではないかと思っている。役に立つから必要とされるものはどんどん人間ではないものに置き換えられてしまうけれど、最初から役に立っていないものはそもそも置き換える必要がない。いかに、みんなにとってはどうでもいいことでも、自分にとってはどうでもよくないことを大事にできるかが、大量生産かつハイクオリティーに対抗できる唯一の術な気がしている。


早速、買ったレモンを絞り、種を取り除いたキンカンと砂糖の入った鍋へと入れた。そのまま数十分放置したのち、とろみが出るまで煮込み、ビンに詰めて冷蔵庫へ。これが何の役に立つのかというと、何の役にも立たない。私の胃袋へ消えて終わりだ。トンビに狙われない買い食いの仕方とか、入れるものが決まっていない竹の小物入れとか、みんなにとってはどうでもいいことだろう。でもこれは私にとってはどうでもいいことなんかじゃなく、生きているのを楽しむために大事なことなのだ。

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