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子どもを尊重し、楽しみながら自ら学ぶ力を身に着ける「サドベリースクール」とは?

今日はオルタナティブスクールの中でも、特に特徴的な「サドベリーバレー・スクール」についてご紹介したいと思います。

子どもの意思と価値観を最大限尊重し、何をやるのも自由。好きなこと、興味を持ったことをとことんやれる環境。
興味、関心こそが学びの原動力という考えで、一方的な授業や時間割はなく、テストもない。学年やクラスもなく、校則もない。
大人は子ども達の自発的な学びを支えるサポーターに徹し、学校運営も子どもたちが話し合って決めるという、独自の理念とスタイルで運営されているスクールです。

一口では説明しきれないため、長い文章になっておりますが、これからの多様化し、より混迷化していくであろう世の中を良く生きていく人を育てる学校としてはとても理にかなった学校だと思います。

書ききれていないこともありますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

▼サドベリースクールとは?

1968年にアメリカ、マサチューセッツ州で設立された、50年以上の歴史と実績を持つ私立学校「サドベリーバレー・スクール」の理念とメソッドを踏襲して運営される学校のことを「サドベリースクール」と呼びます。

本家の「サドベリーバレー・スクール」は元教師であったダニエル・グリーンバーグ氏が中心となって立ち上げた学校です。
グリーンバーグ氏が教師だったころ、あまりに授業に興味を示さない生徒が多く、その理由を突き詰めて考えた結果、「人は興味のない事には学びの意欲が生じない」、「人は学びたいと思った時に最も良く学ぶ」という結論に達し、その考えを実現するために立ち上げたのが「サドベリーバレー・スクール」です。

ちなみにサドベリーバレーとはボストンから車で30分ほどの所の地名です。

サドベリースクールは、世界中で約50校が運営されていると言われています。
日本では約20年前から運営が始まり、現在約11校が運営されています。(ネット上での調べ)

▼教育理念とスタイル

「子どもには自分自身で学び、育つ力が備わっている」「人は学びたい時に最もよく学ぶ」という理念をもとに、一人一人の自発性と意思を最大限尊重した学びの場と機会を提供しています。

スクールには「教師」はおらず、子どもの学びの環境を整え、求められたときにその子のニーズに最適なサポートを行う「スタッフ」がスクールの運営を支えています。

教師による授業や、時間割といった「誰かから与えられる学び」ではなく、何を、いつ、どれくらい、どのように学ぶかは子ども自身の意思に委ねられており、スタッフはそれを実現するために最大限の努力を払い労力を費やします。

また、学ぶこととは、決まった正解を導くこととではないという考えから、「テスト」といった評価制度もありません。
どこまで習熟するかの目標の設定や、どれだけ習熟したかの評価も子ども自身で行います。

学びの範囲は教科学習に限らず、本人が興味を持つものであれば全て「学び」とされ、スタッフとスクールのサポートを受けることが可能です。
一見すると「遊び」をしているように見えても、それも「学び」です。「遊び」の中には学ぶ要素が多くあり、実際に子どもは「遊び」から多くの事を学びます。

釣りが好きな子は一日中釣りをしていてもOKです。
そのうち魚の事を知りたくなり、図鑑やネットで調べる。図鑑を読むためには漢字を知る必要がある。だから漢字を学ぶ。道具やエサを買う時にはお金をもらい支払いが必要になる。その時に計算の仕方を学ぶ。
料理が好きな子はスクール内のキッチンで料理をしてOK。計量には単位の知識が必要なのでその時に単位について学ぶ、など。どれも自分の好きなことをやるために必要なことなので、モチベーションを持って学びます。

自分の興味に対して制限を設けられることなく、思う存分取り組む事が許される環境で、子どもたちは自分の興味を見つけ、追及していく素養を身に着けていきます。

学年やクラスといった区分もありません。
4歳から18歳までのあらゆる年代の子供たちが集い、時には一人で、時には年齢を越え教えあい、学びあいます。
サドベリースクールでは「教えることが最高の学び」が実践されています。

また遊ぶ時も年齢ミックスです。年少者は年長者を見て学び、年長者は年少者に気を配りながら一緒に遊びます。これにより年齢ミックスである実社会で必要な姿勢と対人スキルを身に着けていきます。

仲間がいることで学びはより広がり、深まっていきます。
サドベリースクールの理念とスタイルに共感して通う子どもたちは多様な価値観とさまざまな興味を持っています。
その多様な価値観と興味の内容を交換しあうことで、人にはさまざまな価値観があることを知り、受け入れ、幅広い物事への興味、関心を持つきっかけを得ることができることもサドベリースクールの特長です。

このように、自分の考えや行動が受入れられ、十分に尊重されることで自己肯定感が高まると同時に、他者の考えや行動に対する理解と尊重の意識も醸成され、社会的に成熟した人物へと育っていきます。

▼スクール運営の特徴

スクール(スタッフ)が定める校則はなく、スクール内のルールは全て子どもたちが起案し、随時行われるミーティングでの話し合いの結果、採用されるかどうかが決定されます。
ミーティングで決まったルールの拘束力は強く、破った場合にはその程度に応じて罰則が課せられます。

その他にもスクール運営に関わることは全て子どもとスタッフが同等の立場で話し合い、同等の一票による投票によって決まります。

スタッフの新規採用、継続雇用、解雇についても子どもを主体としたミーティングと投票で決まります。
そのため、スタッフは「子どもにとって最高の学びの環境を整えるためには何が必要か?どのように子どもと接することが最適か?」を考え続けることが必要となります。

スクールの予算の使い方も子どもたちを含めたミーティングで決定されます。

投票においては、スタッフも子どもも同等の一票を持ちます。
そのため、大人(スタッフ)といえどスクール運営を自由に行うことはできません。
何かの施策を実施したい場合、子どもたちとのミーティングで提案し、子どもたちの承認を得る必要があります。

このように子どもと大人が同等の一票を持ち、子ども達がスクール運営に深く関わり、自治的に運営を行うスタイルからサドベリースクールは「デモクラティックスクール」とも呼ばれています。

▼サドベリースクールの「卒業」

サドベリースクールの通学可能期間は4歳から18歳となっています(西宮サドベリースクールの場合。各校により異なる)。

通学可能期間は決まっていますが、「卒業時期」は決まっていません。
サドベリースクールでは「卒業」の時期も子ども自身が決めます。

子ども自身が「ここで学べることは全て学んだ。次のフィールドへ進むべきときだ」と考えた時が卒業の時となります。

ただし「卒業」するためには、「何を、どのように、どのくらい学び、何を得たのか」をスクール内で卒業プレゼンを行い、他のスクール生から学びの実績を承認される必要があります。

一般的な学校の「卒業」とは認識が大きくことなりますが、本来「卒業」とは何か?を考えた場合、自ら学んだ実績を示し、人から認められたときに「自信を持って卒業した」といえるのではないかと思います。

現在、日本のサドベリースクールは学校基本法で規定された認可を受けていない場合がほとんどのため、サドベリースクールを卒業しても公的な卒業認定は受けることができませんが、地元の在籍校の校長と連携し、在籍校の校長が学びの実績を認めた場合、在籍校の卒業認定を受けることができます。
近年の不登校児増加の傾向をうけ、文部科学省も学校に対して「学校以外の学びの場」との連携を強化する指導をしており、サドベリースクールの卒業生が公立学校の卒業認定を受けるケースは増えてくると思われます。

▼卒業の進路

卒業生の進路はさまざまです。
中学や高校での学びを必要と感じ、地元や私立の中学、高校に進学する者。
やりたいことを見つけ、大学進学を目指し高卒認定試験を受けて大学に進む者。そして企業に就職する者。
音楽やアート、料理やスポーツなど、自分の興味を追求し、その道のプロとして職業にする者。
起業する者もいます。

皆、自分の人生に肯定感を持ち、社会生活に必要なスキルと常識を身に着けた社会人として社会に巣立っています。

▼サドベリースクールの良いところ、厳しいところ

前述のとおり、やりたいことを好きなだけできるところ。また、自分の意思や行動が認められ、尊重されるところは子どもにとってとてもうれしいことで、通っている子どもたちの満足度は高く、楽しくスクール生活を送っています。

反面、誰からも何も指示されないため、自分から動かないと何もやることがありません。
中にはそのことに苦痛を感じる子どももいるようです。

ですが、入学当初は戸惑ってもスクールの日常に慣れ、周りの子どもたちの活動を見て刺激を受けるうちに少しずつ自分から何かに取り組むようになっていく場合が多いようです。

また、個人の意思や行動が尊重されますが、スクール内のルールの順守は厳しく求められます。ルールを破った場合、ミーティングによって程度に応じた罰則が与えられます。(例:部屋の使用ルールを破った場合、その程度に合わせて○日間、その部屋の使用を禁止される、等)

つまり、「自由ではあるが、ルールは守る必要がある。自分勝手に振る舞ってよいわけではない。」ということを理解し、実践できない場合、通うことが難しくなります。

ですが、この点も多くの子どもがこの環境に順応し、徐々にルールを守れるようになっていきます。
(どうしてもルールに納得できない場合、ミーティングでルール改訂を提議することも可能です。実際に改訂を重ねているルールもあります。)

▼日本のサドベリースクールの傾向と課題

アメリカの「サドベリーバレー・スクール」を知った保護者が、草の根的に立ち上げたスクールが多く、経営的に安定しておらず、スクール継続に苦労しているところが多い傾向に見受けられます。
全国にある各スクールもゆるやかに連絡は取りあっているが、経営改善のための協力体制があるわけではなく、サドベリースクール全体としての存在感の向上はできていない印象です。

また、スクール運営を子どもたちと共有して運営することがサドベリースクールの特長の一つであるのですが、事業として拡大を目指す際にも子どもたちの決裁を得る必要がある事情もあり、積極的な事業展開がしにくいというジレンマもあるように思います。

ただ、ビジネス的要素が薄いがゆえに醸成されている伸びやかさもあると思われるため、今の良さを残しながら学校経営手法をうまく取り入れることができればより発展していくのではないかと感じます。

▼さいごに

このように、型破りでありながら、これからの価値観が多様化し、自分の価値観の確立が重要となるであろう世の中を幸せに暮らしていける人物を育てる環境として非常に理にかなっていると思います。

また、自分の強みを知り、様々な課題を乗り越えて自分の理想を実現していく力のある人は、「正解のない課題」に対して解決策を創り出していく力を備える人だと思います。そしてその力こそ、これからの混迷を深めていくと思われる社会を良くしていく素養を持った人だと思います。

このサドベリバレースクールの認知を高め、入学を検討される方を一人でも増やせるように働きかけていきたいと思います。

※参考:日本のサドベリースクール(2022年8月ネット上での調べ)

・デモクラティックスクールさいたま あみゅーず(埼玉県さいたま市)
https://www.facebook.com/demoschoolsaitama/

・東京サドベリースクール(東京都世田谷区)
https://tokyosudbury.com/

・湘南サドベリースクール(神奈川県茅ケ崎市)
https://shonan-sudbury.org/

・三河サドベリースクール・シードーム(愛知県岡崎市)
https://www.mikawasudbury.com/

・西宮サドベリースクール(兵庫県西宮市)
https://www.nishinomiya-sud.com/

・デモクラティックスクールまっくろくろすけ(兵庫県市川町)
https://makkuro20.jp/

・インターナショナル デモクラティックスクール まめの木(兵庫県篠山市)
https://ciao-sasayamaschool.ssl-lolipop.jp/sasayama-freeschool/

・新田サドベリースクール(鳥取県智頭町)
http://shindensudbury.org/

・宮崎デモクラティックスクール にじのりずむ(宮崎県児湯郡)
https://nijinorizumu-miyazaki.jimdofree.com/

・沖縄サドベリースクール(沖縄県宜野湾市)
https://www.okinawa-ss.com/

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<サドベリースクールが舞台の映画『屋根の上に吹く風は』上映会×お話し会>~子どもにあった学び場について考える会 vol.1~

日時:20203/8/26(土)、13:00~18:30
場所:人権平和センター豊中(阪急宝塚線「岡町」駅、約600m)
参加費:前売1,800円(当日2,000円)
詳細、お申し込みはこちら
http://ptix.at/6J35VA

主催:『わが子にあった学校選びを支援する会「わがっこ」』
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