筋の悪いテクノロジー リニアモーターカー

文系出身のリタイヤ老人に細かい論証を期待されても困るが、技術には筋のいいものと筋の悪いものがあると思う。最近騒がれているリニアモーターカー(以下リニア)は後者の典型ではなかろうか。

聞けば、開発開始は1962年、営業開始は2027年とか。この間65年!! ライト兄弟が人類初の「飛行」に成功したのが1903年。その20年後にはヨーロッパで旅客機が飛んでいたのである。戦争が飛行機の進化を加速させた負の側面はあるが、ギリシャ神話以来人類の夢だった飛行技術。その進歩の65年がどれだけ人類の文明に裨益したかを思う。

例によって尻軽スポンジ脳のメディアは浮かれているが、科学技術の発達著しいこの時代、実用化に65年もかかるテクノロジーに不審(不信)のひとつも浮かばないか!?

リニアは超電導磁石で動くと喧伝されているが、開発当初は常温超電導の実現を見込んでいたはず。周知のとおりそれは実現しておらず、半ばやけくそ気味の見切り発車である。SDGsが叫ばれるこの時代に電力集約多消費型のリニアを持ち上げる意味が分からない。

従来型の鉄道の路線新設とはわけが違い、走路そのものの敷設から始めなくてはならない。しかもそのほとんどは世界一の地震の巣にトンネルを穿って敷設するのだ。老いたカサンドラの水晶玉には禍々しい映像しか浮かばない。未知の活断層に突っ込んで紙縒りのように押しつぶされる流線型の車両群。

先行した中国のリニアが後退をよぎなくされたように、日本が営業にこぎつけたとして、採算がとれるかどうかも不透明。狭い日本で東京ー大阪間を60数分で移動しなければならないニーズがどれほどのものか? 万が一破綻した場合、リニア技術はその後人類社会に還元できるどんなポテンシャルがあるだろうか。残されるリニアの走路は負の遺産そのものである。

「原理的に可能」を護符にしたコスト無視の技術屋を甘やかす日本のシステム。この分野で日本は突出しているようだが、なんのことはない、賢明にも撤退したドイツをはじめ世界は、ひとつの技術の袋小路を観客席から見とどけようとしているに過ぎない。

こんな時代遅れのメガプロジェクトをロマンと呼ぶ人々は、自分が裨益するかどうかも分からないリニアのために、65年に及ぶ莫大な開発コスト分を上乗せした運賃をJR東海に払い続けてきたことに深く思いを致すべきである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?