風塵

リタイア老人。来し方行く末は一面の砂漠。そこに時おり気ままに水やりをする。期待も幻想も…

風塵

リタイア老人。来し方行く末は一面の砂漠。そこに時おり気ままに水やりをする。期待も幻想もなく… なべて風の前の塵のごとし。

最近の記事

友がみなわれより…

鉄道にまつわるアンソロジーに収められた藤原新也の「菜の花電車」が心に沁みた。 高校時代の同級生N。ある課題に沿って生徒らがものした文章のなかで群を抜く(と藤原が感心した)作品を書いたN。23年後、藤原は仕事で郷里に足を踏み入れた時、たまたまNの所在を知り、前触れもなく訪ねていく。そこは場末のキャバレー、Nはその支配人をしていた。突然訪ねてきた藤原を、しかし、Nは心ならずも邪険に扱い奥にひっこんでしまう。この場面に思わず感情移入してしまったことである。 その数年後、Nから唐

    • 五輪に憧れるのはやめないか

      五輪代表選考にもれたといってTVカメラの前で泣く女子選手がいた。本はおろか新聞も読んでなさそうな若い子たち(昨今は十代もざらで、二十歳前後は中堅と呼ばれる)はたぶん本間龍の『東京五輪の大罪』も、同書のレビューで「五輪はオワコン」と書いた玉木正之の書評も読んではいまい。 もっとも、「五輪」といえば批判精神完全オフの日本のメディアの翼賛報道を見れば、少女らだけを嗤えない。 アスリートがあれほど強い渇望と憧れを寄せる五輪はそれに見合う価値と権威をいまだにもち続けているだろうか?

      • NHK『古代史ミステリー』を観た

        前後編2週にわたる構成。先に『日本人の起源 最新の古人骨DNAが示唆すること』という拙文を上げていたので must see だったが、予約を忘れて前編は後半しか観ていない。しかし、ここでの論旨はほぼ後編に関してなのでこのまま続ける。いくつか疑問があったので列記する。 ◯上記拙文はNHK-BS1の『Frontiers』を観ての感想だった。今回は『古代史ミステリー』。ともに空白の古墳時代、空白の4世紀を扱いながら、なぜ前者に対する言及・参照がないのか不思議だった。同じ社内ではな

        • 安藤友香の残念

          10日の名古屋ウィメンズマラソン、海外招待選手を制して優勝した彼女はやはり地力のあるランナーなのである。2017年に同レースで出した自己記録を更新もした。 これで何が残念なのか? 自己ベストといっても従来の記録は7年前の初マラソンの記録である。初マラソンの記録を更新するのに7年は長すぎるし、その間のシューズの爆発的進化を思えば、18秒のアヘッドは too small と言わざるをえない。 (急いで付け加えるなら、前田穂南の日本記録更新も19年かかって更新幅13秒は、同じ理

        友がみなわれより…

          国会議事堂を建て直そう

          何十年も前に耳にした逸話をひとつ。初来日のフランス人をアテンドして千代田線に乗っていた男性。国会議事堂前駅に到着したときのこと。フランス人が駅名プレートのアルファベット表記を読み上げたところ、男性が吹き出してしまったという話。なぜか?   kokkaigijido-mae コッケィジジドーメィ つまりは、「滑稽爺堂めぇ」と聞こえたのである。 いままさにあの中で演じられている政倫審という名の茶番劇を見ていてこの逸話がよみがえったことである。悪いことと分かっていて裏金蓄財を

          国会議事堂を建て直そう

          ペースメーカー談義の的外れ

          東京マラソンでのペースメーカーの所作がどうのこうのとかしましい。 何事もなければ好記録は選手の手柄になり、なにかあるとペースメーカーを責める。愚かなこと!! まれにペースメーカーをほめる例があるが、その場合選手はペースメーカーの援助をうけて好記録を出したということになるのかと皮肉りたくもなる。 (以下、ペースメーカーをPMと略) 西山選手や新谷選手らが残念な結果を直接PMのせいにしたかは知らず、今回のPMを責める論者らは、「ではPMがいなくても選手らは3日の記録は出せた

          ペースメーカー談義の的外れ

          This is a pen. は「ペンになります」か?

          いつごろからだろう、テレビを観ていてとても気になる表現がある。「ペンです」でいいところ、「ペンになります」と言う。これは一体日本語なのか? 状況としては、AがBに対し、Bにとって初見と思われる事物を紹介・説明する場面で使われている気がする。「これが、〇〇になります」と。(これを聞くたびに内心、「〇〇です」でいいだろ! とつっこんでいる。) ことほどさように、この表現は今のところ話し言葉にとどまっているようだが(最近書き言葉の例に遭遇しドキッとした)、ひとり(?)心配してい

          This is a pen. は「ペンになります」か?

          ハンス・カロッサ 断章

          連日、ウクライナやガザで進行中の惨状を見るたびに、カロッサの美しくもはかなげな文章のいくつかを想起する。 空が晴れた日は、夜にみた夢を早く忘れる。だが曇った日はなかなか消えていかない。 第一次大戦時のルーマニア戦線における従軍日記『ルーマニア日記』高橋健二訳(のちに『戦争日記 JOURNAL DE GUERRE』と改題)からの抜き書きである。ドイツ人には珍しい軽やかな名の医師であり詩人であるカロッサはイタリアにルーツをもつらしい。 大気の澄みきった美しい夕べだった。地球

          ハンス・カロッサ 断章

          残念な櫻井よしこ

          「祖国のために戦えますか」と若者たちに問いかけた櫻井女史。昔から残念な人と思っていたが、このたびは見事に問いかける相手を間違えている。 上の問いは、だれよりもまずご自身のお仲間たち、昵懇だった元シュショーAの子分たち、いましも裏金蓄財が暴露されてあたふたするおじさんたちに向けるべきだった。なんなら加えてかれらの「公表済の政治信条と裏金蓄財がどう整合するのか」を問うてほしかった。さらには「春秋の靖国参りでは英霊にどう申し開きするおつもりか」を。 その回答を公開したうえで、ど

          残念な櫻井よしこ

          日本人の起源 最新の古人骨DNAが示唆すること

          。NHK-BS1のFrontiersを観た。日本の古人骨のDNA解析の最新情報を紹介していた。備忘のため書き留めておく。劣化の兆しのある記憶に間違いがないことを祈る。 通常われわれは日本人の起源は縄文人でありそこに弥生人のDNAが重なった二階建て構造であると理解しているのではないか。ところがそれが覆されたのである。 縄文人のDNAの特異性・孤立性はつとに有名だが、それが説明できるようになった。およそ6万年前にアフリカを出たホモサピエンス。なかで東に向かった集団のうち最初期

          日本人の起源 最新の古人骨DNAが示唆すること

          想像力が試される

          桐島聡の名乗りによって、1974年8月30日に起きた三菱重工ビル爆破事件が半世紀の眠りからよみがえってきた。 8名が亡くなり、350名が負傷した。しかし、当時闇に葬られ今も触れられない事実があるという。 三菱重工には爆破予告が届いていた。もちろん公安当局にも伝わったはず。ところが、社内への周知はおろか、なんらの予防措置もとられなかった。昨今の常識からすれば、99%愉快犯と分かっていても、学校は休校となり、催事は中止されるだろう。当時の何でもありの殺伐とした空気からすれば、

          想像力が試される

          筋の悪いテクノロジー リニアモーターカー

          文系出身のリタイヤ老人に細かい論証を期待されても困るが、技術には筋のいいものと筋の悪いものがあると思う。最近騒がれているリニアモーターカー(以下リニア)は後者の典型ではなかろうか。 聞けば、開発開始は1962年、営業開始は2027年とか。この間65年!! ライト兄弟が人類初の「飛行」に成功したのが1903年。その20年後にはヨーロッパで旅客機が飛んでいたのである。戦争が飛行機の進化を加速させた負の側面はあるが、ギリシャ神話以来人類の夢だった飛行技術。その進歩の65年がどれだ

          筋の悪いテクノロジー リニアモーターカー

          アンチスノッブ 上田秋成

          戦後の保守一党支配政治を延々とささえているこの国の空気をスノビズムといってきた。スノビズムとはなにか? その特性リストを並べるよりも、ここではアンチの典型をあげて逆照射してみよう。 『雨月物語』の上田秋成である。最晩年に、今でいうブログのような『胆大小心録』をものしている。これを引き受ける気骨ある版元があったことに感動する。なかでもっとも痛烈かつ痛快な断案をひとつ。 「どこの國でも其國のたましひが國の臭氣なり」と喝破し、「やまと心のなんのかのうろんな事」をと一蹴している。

          アンチスノッブ 上田秋成

          『石川淳選集』

          19世紀の末1899年生まれのこの文人は敬して近づかずというか、むかし長編を一度手にしただけ(よく分からなかった)で、何もなければ無縁のまま終わる人だった。それが先日松浦寿輝が言及していた「無明」という短編作品を読んでみたくなり、標記選集9巻(短編小説集)を手にとり、ついで同14巻(評論・随筆集)を読み終えた。 石川淳の名は若い頃から知ってはいた。しかし石川に言及する文筆家がだれであれ、文脈がどうであれ、決まって表される畏怖畏敬の念に気づいていて、それだけいっそう近づきがた

          『石川淳選集』

          向田邦子『父の詫び状』

          この高名なエッセイはもちろん前世紀から知ってはいたが、なぜか縁がなく読まずにきたが、あるアンソロジーに収録された向田の一篇を読み、手に取る気になった。 評判に違わぬ珠玉のエッセイ集だった。だれもというわけではなかろうが、ひとりの女性の幼少期の記憶がこれほど精細でかつニュアンスに富んだものとは知らなかった。 タイトルに導かれて複数の挿話が記憶の泉からすくい上げられ、時と空間を行き来しながら絶妙に編み上げられて一篇をなし、それが二十数篇並ぶのである。これを出したのは40代後半

          向田邦子『父の詫び状』

          能登半島地震2024と万博

          この地震の命名にあたって「令和6年」と付す意識の低さにどっと疲れが出た。これほどの大惨事を世界史に刻み、銘記しなくてどうする!?  毎日欠かさず地震の発生状況をチェックしている自分は、もちろん、ここ数年能登半島でつづく群発地震のことは知っていた。ショックだったのは、そんな素人ウォッチャーの願いをこめた安心理論があっさりと覆されたこと。すなわち、小さい地震が続けば地下で蓄積されたエネルギーが徐々に放出されてカタストロフは避けられる、という。 震度7を記録したのは志賀町だった

          能登半島地震2024と万博