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💗Short:熟れ始めた桃の味*しばらくぶり1・椅子にまたがり

仕事が立て込み、なかなか資料探索も時間がない。彼女の姿も見られず、仕事に集中していた。

「もう3週間か・・・」

頭を瞬間過った。日暮れているが、夕食も準備出来ていない。最後の数行を残し、部屋に明かりを着け、簡単な食事を済ませた。

再び、机に着くと、最後の数行の表現を考え出そうとするが、頭が狼狽えている。椅子に座ったまま、身体を伸ばす。背伸びするように両手を上にあげる。

そのまま寝ていたのか。机の向きとは反対方向に椅子が回転し、足元に彼女が立っていた。

「もう・・・」

長いこと顔を見せないので、不貞腐れていた体で呟く。彼女がこのような行動をとることは想像できない。彼女はいつも慎ましやかだ。よほど心にくぐもり、くすぶっていたのだろう。

彼がなかなか椅子から起き上がろうとしない。彼女はさらに苛立ってきた。椅子にはひじ掛けがない。彼の腹下に跨り、座った。彼女にとっても思いがけない咄嗟の行動だった。

彼の腰に彼女の体温が伝わってくる。見ると、彼女はいつものチャコールグレーのパンツを穿いていた。シャツもいつもの生成り色の白生地だ。ややゆったりとするシャツが弛んでいる。

「シャツが弛んでいるよ」

思わず、彼女は背筋を伸ばす。彼女は彼の腰あたりに跨ったままだ。

「後ろに手を回して」

彼女は素直に両手を後ろに回す。次第に背筋も伸びていく。

「もっと背筋を伸ばして」

彼女の背筋が反り返り気味になる。彼女が背筋を伸ばすと、Cカップの胸が突き出されたような感じになる。シャツが張り、胸が突き出されている。彼女は恥ずかしそうに斜め下に視線を降ろす。自分で跨っていながら、恥ずかしさが襲ってきているのだろう。

彼は彼女のパンツのホックを外しに掛かった。

「そのまま」

彼女が驚き、反射的に反応する前に、彼女を制した。彼が何を狙っているかが分かり、腰が震える。

危なく思った彼は、彼女を降ろした。彼女は力が入らないらしく、身体が揺れている。彼は彼女を抱きかかえ、ベッドに誘導し、続けてパンツのホックを外しに掛かった。彼女は仕事の遅番を終えて、直接ここに来たらしい。

「お願い、やめてぇ・・・」

彼女の語尾が震えている。大胆に挑んでしまったことを後悔している。彼女は目を瞑り、唇が緩んできている。


もう彼女は熟している自分を自覚している。彼女は伏し目がちだが、今までしたことがない上目遣いで見ながら、顔が恥じらっている。

「君は君らしくが一番いい」

涙ぐみ始めた彼女を慰めよう。
「今度、1日空けるよ」
「本当・・・」
期待するような、疑うようなまなざしで、指切りげんまんを求める。

彼女は、恥じらいの笑顔を残して帰っていった。彼は残っていた数行を書き終えて、笑顔のほころぶ彼女を思い出していた。
(とんだ約束をしてしまった)
(でも、熟れてきているな)
頭の中で反芻していた。

*続く





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