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💗Short:料亭離れの接待に駆り出され

少し昔の話。爽子の勤めている銀行では、定期的に本社から内部監査が行われている。いつもは粛々と行われていたが、爽子の担当になった時、男性事務の勘違いによる処理が行われ、軽微な案件だったが、特別監査の対象となった。 「本店から特別監査が来る。接待を組んでおけ」 上司からの命だった。 「滞りなくな」 爽子は念を押されていた。 早速、日程に合わせて料亭・彩香(さいか)を予約した。その地区では、料亭・彩香は知る人ぞ知る料亭だった。母屋と離れがあり、要請すれば、どちらか一方だけ営業し

    • 💗Short:アグレッシブ男に煽られて

      結婚して6年。夫婦は相談して、子供は1人。もうすぐ子供は小学生。小学校の学期が始まる前に、家族で旅行することになった。観光地を巡り、宿屋に着いた。彼女がバスで眠っている間も、夫と子供はスマホ・ゲームで盛り上がっていた。 食事を終えると、疲れが出たのか、夫と子供は瞬く間に床に入ってしまった。(うん、もう・・・)夫婦の会話を期待していたのに。夫はいったん寝ると、起きてはこない。(うん、もう・・・)梯子を外された感が否めない。 彼女はアルコールが飲める。酔いたくもなってきた。旅

      • 💗Short:熟れ始めた桃の味*しばらくぶり2・料亭に出かけて

        原稿提出が終わり、仕事の切れ目ができた。早速、彼女に連絡しなければ。 彼女の仕事終わりの夜、電話した。自分の部屋でスマホを受信したらしい。待っていた声の響きがある。 「いつですか?」 言葉少なめだ。泊まりだと分かると、声が弾んできた。 * 約束の日の昼過ぎ、待ち合わせて車で「幸亭」に向かった。「幸亭」は瀟洒な料亭として知られている。海の見える高台に構えており、眺望もひそやかだ。 車の中の彼女には、いつもの冷静さと控えめさが戻っていたが、どこか恥じらいがある。 「

        • 💗Short:熟れ始めた桃の味*しばらくぶり1・椅子にまたがり

          仕事が立て込み、なかなか資料探索も時間がない。彼女の姿も見られず、仕事に集中していた。 「もう3週間か・・・」 頭を瞬間過った。日暮れているが、夕食も準備出来ていない。最後の数行を残し、部屋に明かりを着け、簡単な食事を済ませた。 再び、机に着くと、最後の数行の表現を考え出そうとするが、頭が狼狽えている。椅子に座ったまま、身体を伸ばす。背伸びするように両手を上にあげる。 そのまま寝ていたのか。机の向きとは反対方向に椅子が回転し、足元に彼女が立っていた。 「もう・・・」

        💗Short:料亭離れの接待に駆り出され

          💗Short:熟れ始めた桃の味*孤島の月明かりに

          半島の先端に、半島に従うように、周りに小さな島が5つばかり。その中に、ひょうたん型の島がある。半島の先端からは12キロメートル。 家は30軒ばかり、しかし、実際に住んでいる住民は8戸ばかりである。その昔、島から海外に出稼ぎに出た島であり、成功して帰ってきた島民が瀟洒とはいえないまでも、和洋折衷の居宅を建てていた。その居宅も今は空き家である。外れに建てられた中の1軒だけが民宿として開放されていた。 * スマホにメッセージが入ってきた。 「来週の土曜日に平島に行きましょう」

          💗Short:熟れ始めた桃の味*孤島の月明かりに

          💗Short:隣家の車に傷をつけて

          爽子(さわこ)は新築の家に引っ越してきて6か月が経とうとしている。同じ団地に住む主婦・恵子(けいこ)とコープを通じて親しくなった。恵子は時折訪ねてきてはお茶を一緒する。 爽子は結婚を機に専業主婦となり、子供を一人設けた。夫とは仲がいいが、子供を授かってからは、夫は役割を果たしたかのように仕事に集中している。爽子は寂しい夜を過ごしている。 隣の建売住宅の買い手が決まったらしい。幟や看板を住宅会社の社員が片付け、挨拶に訪れた。隣の買い手は男一人暮らしということだった。年代も爽

          💗Short:隣家の車に傷をつけて

          💗Short:熟れ始めた桃の味*民家での夕食に誘われて

          急いで司書が追いかけてきた。図書館からすでに出ていた。県の図書館から 本が届いているという。いつもは木曜日の午後にならないと到着しない。今日は午前中に届いたという。 引き返して本を受け取る。司書に安堵の表情。本を受け取るとき、指が触れる。司書の手から本が手渡される。 (彼女・・・もう7年になるかな、職についてから) 彼女は学生時代も女子とだけ付き合い、男性が身の回りにはいなかった。年頃になった時、両親も気にかけ、嫁入り先を見つけようとしたが、なかなか縁がなく、ただなんと

          💗Short:熟れ始めた桃の味*民家での夕食に誘われて

          💗Short:距離を置いた夫婦関係のすきまに

          「東京出張なんだけど、今晩、泊めてくれるかな。急に出張を命じられて、なかなかビジネスホテルが取れないんだ。」 同級生・雄太(ゆうた)から電話があった。 「今晩・・・」 急な話に、由夏(ゆか)は思わず口ごもった。 (夫は出張中だ) 口ごもっていると、 「迷惑は掛けないようにするよ」 押し切られるように、断ることはできなかった。 * 同級生・雄太と夫と、由夏は3人でよくつるんでいた。雄太は由夏と付き合いたいのか、盛んに二人きりになろうとしていた。 そんな同級生

          💗Short:距離を置いた夫婦関係のすきまに

          💗Short:道着女子のたくらみ

          ここは鎌倉。著名な評論家を訪ねるべく、祐太は時間調整のために寺を巡っていた。*祐太は雑誌編集者。 寺に上がる階段の下に来た時、上から2人の弓道着を着た女子が下りてくる。段違いに2人の女性も下りてきていた。4人も同時に降りてくれば、階段を上がるのを待たざるを得ない。祐太は左端に避けた。 道着女子が最後の段を降りようとした時、右端を勢いよく上がる男性がいた。2人の女性は避けようと、右に寄る。押されて道着女子ははみ出される様に右によろけてしまい、祐太にぶつかりそうになる。 祐

          💗Short:道着女子のたくらみ

          小話:危険な好奇心・ラーメンの誘惑

          彼は危険な好奇心を持っていた. 彼はインターネットで見つけた悪評の多い店に行ってみたいと思っていた。彼は美味しいものが好きだったが、それ以上に変わったものや不味そうなものに惹かれていた。 彼は自分の舌で確かめることで、他人の感想や評価に影響されないと信じていた。 ある日、彼は仕事帰りにふと思い立って、近くのラーメン屋に入った。その店はネット上で「最悪のラーメン屋」と呼ばれており、汚い店内や不潔な調理、無愛想な店員や高い値段など、悪い口コミが山ほどあった。彼はそんな店に興

          小話:危険な好奇心・ラーメンの誘惑

          Short:ウラアカ・ホンアカ

          彼は、Twitterで裏垢を作っていた。本垢では、真面目な大学生として振る舞っていたが、裏垢では、自分の本音や趣味を自由に発信していた。 裏垢では、同じ趣味を持つ人たちと仲良くなり、特に一人の女性とはよくやり取りしていた。彼は、その女性に惹かれていたが、裏垢であることを知っていたので、本当の自分を見せることができなかった。 ある日、彼は、その女性からDMでメッセージをもらった。彼女は、近くに来ることになったので、会って話したいと言ってきた。 彼は、驚いたが、嬉しかった。

          Short:ウラアカ・ホンアカ

          Short:同級生・ぬるくなった生ビールの泡

          * * * 同窓会から3か月後、同級女子から電話があった。 「裕太が熱心なのよ」「2次会代わりに、小さなグループで同窓会しないかって」「あなたが来ると5人かな」 同級女子はノスタルジックな居酒屋が好きだった。幹事役として恵比寿の路地裏にある老舗を選んでいた。 皆パンクチュアルだ。時間通りに集まった。舌鼓を打ちながら、よもやま話に花が咲いた。食事が終わると、男性2人が時間の都合をつけて来ていた。「悪い!俺たちアポが重なって、これで失礼するよ」しばらくすると、同級女子のス

          Short:同級生・ぬるくなった生ビールの泡