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「安くてうまい個人商店」の時代は終わりかもしれない

この「安くてうまい個人商店」というのは、飲食店だけを指しているのではありません。

薄利多売時代の終焉

安いことを継続したくて企業努力を重ねている零細企業、パパママ商店、一人親方、そうした人件費が価格に反映されていない、もしくは、できない全ての業種について言えることです。

よく、採算度外しで若い人にたくさん食べてもらいたいと大盛りを出したりするおばちゃんとおじちゃんの店をテレビで紹介していますが、そのおばちゃんやおじちゃんはいいけど、その子供の代には継がれなかったり、店員さんも年寄りで、若い人がいなかったりすることが多いわけです。

有名なところでは、神保町の「いもや」の閉店

『いもや』に押し寄せる“高齢化”の波に「我々には後継ぎがいない…」との問題が重たく圧し掛かる。「『いもや』は薄利多売の商売だから、自分の子どもに『この仕事をやれ』ったって酷(こく)な話でね」(樋口氏)

私も若い頃、いもやの天丼にお世話になったので閉店は寂しいですが、子供に継げない仕事は果たしてビジネスとして正しいのでしょうか?

それはやはり閉めたほうがいいのではないかという気がします。

そして、同様のことが、飲食店だけではなく日本の戦後を支えたあらゆるビジネスに蔓延っているのではないかという気がします。

「今の若い人は私たちのようには頑張れないのよ。8時間労働が常識だし、“ヨシ、売ってやろうか!”って風にはならない。だから人を多めに抱えざるをえず、人件費が上がってしまい、薄利多売の商売が成り立たなくなる…。働き方やワークライフバランスが重視されるこの時代に、“家族的な絆”を頼りにする『いもや』的な人情経営は合わなくなってきているように感じます」

頑張れない、とか、人情経営とか、よく言ってますが、結局、弟子に無理させて、長時間労働で成り立つ帳尻って、なんなんでしょう。

薄利多売は、やはり高度経済成長の中で、量が確保できたり、右肩上がりの消費構造が見える中で成立するもので、少子高齢化で量が確保できず、先が見えない低成長かの日本では、すでに成り立たない事業モデルなんじゃないでようか。

ビッグマック指数に見る日本の低迷

それを指摘する声が増えているのも、ムベなるかなと。

日本の「安くてうまい」がいかにクレイジーな領域までいってしまっているのかを、理解するのにうってつけなのが、ビッグマックの価格である。1990年当時の価格を基準とすると、米国や中国は約2.5倍に高くなっているが、日本は約1.05倍。吉野家の牛丼と同じで、ほとんど同じ水準なのだ。こういう国はかなり珍しい。

ビッグマックは、その国の経済事情の指標として知られていて、ビッグマック指数という言葉があるほどです。

ビッグマックはほぼ全世界でほぼ同一品質(実際には各国で多少異なる)のものが販売され、原材料費や店舗の光熱費、店員の労働賃金など、さまざまな要因を元に単価が決定されるため、総合的な購買力の比較に使いやすかった。これが基準となった主な理由とされる。
最新の2021年7月の指数では、日本とアメリカのビッグマック指数は-37.2%となっています。2021年9月1日時点の為替レートは1ドル=110円程度ですので、110×(1-0.372)≒69となり、1ドル=69円くらいが妥当と考えられ、現在の円は非常に過小評価されていることになります。

日本国内のライバル企業となる飲食店や、コンビニとの競争の中で、日本マクドナルドはビッグマックを値上げしずらい状況にあるのはもちろんなのですが、一方で、その値段でビッグマックを製造できる程度に、日本国内の各種料金は「安い」ということも言えます。

この点を裏付けるように、先の記事では、値上がりしないものとして日本の給与を挙げています。

このビッグマック価格と見事に重なるような動きをしているものがもう一つある。それは、日本の平均年収だ。OECDのデータによれば、米国、ドイツ、英国、フランス、そしてお隣の韓国でさえ90年から平均年収は基本的に右肩上がりで増えている。しかし、日本だけが「30年間横ばい」なのだ。

メーカーが「安くてうまい」を継続するために、人件費まで「安くてうまい」に転じているのが日本なのではないかということです。

それは飲食だけの話ではありません。

安く買える時代の終焉

原材料の高騰など、安く売るために必要な「安く買う工夫」がすでに成立しなくなっているのです。

瀬戸氏は「こうしたコストアップは一時的なものでなく、長期に向き合わなければならない課題」と捉えている。途上国の生活水準が上がり、世界中であらゆる物資の需要が膨らんでいるためだ。

安く売るためには、資源が乏しい日本では「安く買う」工夫が求められてきました。より安い材料、より安い工賃を求めて海外に移転してきましたが、その移転先である海外拠点が、すでに日本よりも高い人件費になってしまったのが中国です。では、ベトナム、バングラディシュ、それで良いのでしょうか?

日本企業の安売り志向はデータにも表れている。企業が製造コストの何倍の価格で販売できているかを測る「マークアップ率」を国際比較した18年の国際通貨基金(IMF)の論文によると、1990年以降、日本企業のマークアップ率は米国や欧州を一貫して下回る。景況感が改善したアベノミクスの間ですら1.1倍前後と、米国の約1.6倍や欧州の約1.3倍より低かった。

すでに値上げ抑制を「企業努力」という言葉でカバーするには限界が来ているのではないでしょうか。

結局、賃上げ抑制で値上げをカバーしているのが日本企業だという声も高まっています。安倍政権以降、経団連に賃上げを要請してきたのは、そうした声を反映してのことだと言えるでしょう。

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安い人材の終焉

そして、人材の空洞化が起きていると言えます。最も優秀な東大大学院卒は、日本企業など受けず、GAFAや海外コンサルや社会企業家を目指して海外に出かけてしまいます。

商社が人気なのも、海外との取引や、社会企業家的な働きを求めてのことのようです。

国内でちまちま働く気がないわけです。

そこで、少子化で足りない人材を埋めるために、外国人労働者を受け入れようとしています。安い労働者を求めてのことだということが、こうした調査から判ります。

第5章は、外国人労働者の賃金への影響を分析している。技能実習生を除けば、同じ雇用形態では外国人労働者と日本人には差異はないこと、外国人労働者比率が高い産業では平均賃金の低下につながっていること、労働需給面では賃金上昇にとってマイナスに寄与すること等から、全体として若干の賃金抑制効果があると推計している。

しかし、それもコロナ禍で途切れました。

入国管理局の横暴や、外国人実習生への搾取など、問題も表面化しています。

安く作るために安い人材を使う時代は終わりを告げようとしています。

うまい、早い、安いへ、順番を変えよう

吉野家の安倍元社長にお話を伺ったことがあります。

吉野家といえば、「早い、うまい、安い」というキャッチフレーズが有名ですが、このフレーズは時代によって、順番が変わっているというのです。

しかし、1994年から品質やおいしさをアピールするため、うまいを先にして「うまい、はやい、やすい」の順番に変更。さらに2001年に牛丼並盛りの価格を400円から280円に改定したことから、「うまいとはやい」を両立させつつ、「うまい、やすい、はやい」の順序にし、現在に至る。どの部分を真っ先にアピールしたいかは時代によって変わってきたというわけだ。

この「うまい」を先に持ってきたのが、安倍社長時代でした。少々の早いを犠牲にしても、「うまい」と「安い」を両立させたいというお話でした。

しかし、その「安い」も壁に当たっています。

供給面を脅かすのは、穀物価格の上昇だけではありません。労働力不足もまた、生産活動にマイナスのダメージを与えています。

肉の値上がりの背景は、結局、安い労働力が確保できないことと、流通にありました。これは今後も企業努力では解消できないでしょう。

「安い、うまい」を企業努力でキープする時代は終わったのです。

ではどうするか。そこにDXだとか機械化だとか、要は、仕組みの導入が必要なのです。そしてそれは、個人レベルではできない投資です。

厚生労働省によりますと、手洗い設備などの食品加工専用の施設を作り、許可を得る必要があるといいます。高橋さんは自宅の農器具を置く小屋で「いぶりがっこ」を作っているため、専用施設に改修するには100万円以上かかると困惑しています。

これが一見すると、農家の手作りが危機に瀕している、伝統の食文化を守るために衛生基準法に例外規定を設けてはどうか、というような議論になりがちな話に見えます。

しかし、これと同じ話が、実はあらゆる分野の個人経営レベルの零細企業に起きているわけです。

例えば、キャッシュレス対応に個人店舗でレジを導入するのをどうするか。

例えば、1000万円未満の人にも適用されるインボイス制度だとか。

2023年にスタートするインボイス制度とは、簡単にいえば、取引内容や消費税率、消費税額などの記載要件を満たした請求書などを発行・保存しておくという制度です。要件を満たした請求書を保存しておくことで、仕入れ側は消費税の仕入額控除を受けることができます。

法律の変更、デジタル化への対応、現代の仕組みに適応しようと思うと、何かとシステムの導入が避けられません。

そして、その費用は決して安価とはいえず、多くのフィンテック企業により開発されたサブスクリプションの導入で対応できるのは、ある程度の規模と知識がある企業だけとなります。

これまでの「人情経営」とか「家族的経営」とか「企業努力」というだけでは対応できない時代がやってきているのです。

個人の能力で対応するしかない個人商店にはなんとも厳しい時代です。でも、だからこそテクノロジーで解決する企業と協力し、また、若い人の力を素直に借りて、彼らが期待を持てる事業内容に改めて行くことが、「安い、うまい」を標榜する個人商店には必要で、そこではまず「うまい、だけど、それほど安くはない」というような形に事業転換することが必要ではないかと思います。

「うまくて、そこそこ」の評価するに値する会社の時代なのではないでしょうか。

まずは本読んで勉強してみますか。


サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。