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SINETが400Gbpsになったんですが、それって何がすごいんですか?

昨日、国立情報学研究所のプレス発表に行ってきました。

この発表があったためです。

プレス発表というのは、プレスリリースを出す際に情報を送るだけではなくて、記者を呼んで説明する会のことです。今回は、漆谷副所長と担当の栗本准教授による解説がありました。

このインタビューの答えているのが栗本准教授。

当日、記者は10名くらいでしょうか。新聞社やフリーライター、インターネットメディアなど。私はフリーライター枠で行って来ました。

国立情報学研究所は、一ツ橋にあります。

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)は、情報学という新しい学術分野での「未来価値創成」を使命とする国内唯一の学術総合研究所です。情報学における基礎論から人工知能やビッグデータ、Internet of Things(IoT)、情報セキュリティーといった最先端のテーマまでの幅広い研究分野において、長期的な視点に立つ基礎研究、ならびに、社会課題の解決を目指した実践的な研究を推進しています。

そのNIIで大学共同利用機関として構築・運用しているのがSINET(学術情報ネットワーク=SINET: Science Information NETwork (サイネット)です。

学術情報ネットワークは、日本全国の大学、研究機関等の学術情報基盤として、国立情報学研究所(NII)が構築、運用している情報通信ネットワークです。
大学、研究機関等に対して先進的なネットワークを提供するとともに、多くの海外研究ネットワークと相互接続しています。
教育・研究に携わる数多くの人々のコミュニティ形成を支援し、多岐にわたる学術情報の流通促進を図るため、全国にノード(ネットワークの接続拠点)を設置し、大学、研究機関等に対して先進的なネットワークを提供しています。

ということで、日本の大学や研究機関など約900が加入して利用しています。今は、全国を100Gbpsでつないでいるのですが、その中心となる東京ー大阪を400Gbpsに増強したわけです。

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この400Gbpsというのがどの程度すごいかというと、50GBのブルーレイのデータを転送する場合に、一般的なインターネット100Mbpsだと1時間かかるのですが、400Gbpsだと約1秒で転送できるのです。

Mbpsは1秒間に1メガバイト(=100万バイト)送れるスピード。

Gpbsは、1秒間に一ギガバイト(=10億バイト)送れるスピード。

ということは、普通のネットの4000倍ということで、1時間=3600秒なので、1時間が1秒になるわけです。

このスピードは、データセンターなどで近距離では達成しているものの、東京ー大阪のような遠距離(約600キロメートル)では、商用、研究用を含めて世界で初めてではないかということでした。

技術的には今年度の初めに達成できていたのですが、400Gbps化の国際標準の決定が遅れたために発表できず、今回、それに合わせて発表したので、世界で最も早いタイミングでの400Gbps達成の発表なのだそうです。

研究成果だけならばNTTが1テラの転送速度を発表していますが、今回は国際標準に準拠しているのでルーターなどの周辺機器も接続できる利用可能な回線という意味では、間違いなく世界最速です。

ではなんで、こんな早い回線が必要かというと、研究データが大容量になっているからです。計算機の速度も上がってますし、映像データも8K非圧縮映像が始まり、国際連携による宇宙や素粒子の研究ではものすごいデータ量を海外との間でも伝送して、それを解析しなければなりません。またデータは、研究機関で保管しているだけではなく、日本では震災などに備える意味でも大抵二箇所のバックアップ用データセンターが必要です。例えば国立大学の災害時用データは札幌と福岡のデータセンターに保管しています。こうしたデータのやり取りは転送スピードが遅いよりは早い方がスムーズに進みますし、SINETは商用インターネットとは隔絶された研究専用のネットワークなので、こちらを研究者に利用してもらえば、一般回線に影響することもありません。使いやすく、高速で、セキュアな回線としてSINETの重要性は増しているわけです。

中でも、東京と大阪の間は、大学や研究機関が集中しています。まずは、この間の回線を強化し実際に運用することで、テストではわからない色々な問題があればそれを潰していくことができます。その上で、全国の回線を400Gbps化するSINET6が2022年から計画されています。

400Gbps伝送の技術的ポイントは、伝送装置と光ファイバの二つの要素を改良したそうですが、ここは難しいので、その二つをスゴクしたということだけ覚えておいてください。

もう一つの発表は、国際高速データ転送実験についてでした。東京とアメリカ・デンバーの間を100Gbpsの国際回線5本を同時に使い、95テラバイトのデータを独自の転送プロトコルを利用して転送し、ピーク速度416.3Gbpsを達成しました。

この実験の意図は、ピーク速度の記録ではなく、NIIが開発した独自のプロトコルが転送速度を出したことにあります。400Gbpsの回線を作っても、回線をフルに使える転送プロトコルがないと有効に利用できません。つまり、この実験はプロトコルの利用テストということになります。プロトコルというのは、転送の手続きというような意味です。普通のインターネットだとFTPとかTCP~IPというのは聞いたことがあるかと思いますが、File Transfer ProtocolがFTPつまり、ファイル転送プロトコルということになります。

そのFTPが1本から数本の仮想通信路(TCPコネクション)を使うのに対して、今回開発したMMCFTPは非常に多くの仮想通信路を同時に使うことで大量のデータを転送する仕組み。今回の実験では、5本の100Gbpsの回線の中で約5500本の仮想通信路を利用したそうです。

この二つの研究成果を同時に発表したのが、今回のプレスリリースでした。

日本の研究が高度であり続けるためには、こうしたインフラも重要なわけです。今後、研究プロジェクトはますます大型化し、大量のデータを解析する必要があります。そのためには計算機と通信インフラが重要になります。計算機は、富嶽が決定しましたが、そのインフラとしてSINETの高度化が求められます。それが400GbpsのSINET6への置き換えです。

ただ、研究現場や教育用に研究専用線に商用ネットを接続する要求も高まっていますし、大学や研究機関だけではなく、小中高の教育用回線への開放という話もあります。今後400Gbpsへの置き換えも重要だと思いますが、今の100Gbpsを残して、そちらを小中高連携用に使うというようなマルチ展開を見通していくことも必要ではないかと考えます。

何れにしても、先端研究の発表内容を直接研究者から聞くのは楽しいですね。ただ、記者の数が少ないのも気になりましたし、それを理解してわかりやすく伝える人材が必要だということも改めて感じました。

社会におけるサイエンスコミュニケーターはどこに行ったのかなというのを、こういう時に常に感じるんです。狭いコミュニティにはいるんですが、こういう場で出会うことは少ないです。その辺が研究広報の課題ですね。

そのマッチングが重要だなと、この10年思っていますが、あまり改善してないのかなあ。








サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。