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「カラスビシャク」のマイクロノベル 他3篇 #18

 花屋で働いていた頃、「カラスビシャクの花を89輪、明日9時に○○駅の改札まで届けてください。必ずですよ」とだけ、切羽詰まった調子で電話注文があった。いたずらと思い、もちろん届けることはなかった。でも、この花を見かけるたびずっと気になっている。

 地獄の釜の蓋が咲くという。小さな紫色の花だ。道端で地面に張りつくように葉を広げるキランソウという草の姿を蓋に見立てた別名らしい。地獄の釜の蓋は茎を伸ばして増えていき、その分地下にも地獄が広がっていく。

 祖父が大事にしていたロウヤガキの盆栽。てっきり牢屋柿と思ったら、柿の実を鴉にみたてて老鴉柿か。でも、柿の実の中から出してくれと小さな声が聞こえる。祖父が亡くなって、手入れする者もなく枯れてしまった。

 麋角羊歯(ビカクシダ)の名前にある「麋」というのは空想上の大鹿だそうな。その角の形に似ているというのか。そう知ってしまうと、ビカクシダの影の向こうから「麋」の足音が聞こえてくる。ほら、そこに隠れてる。

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