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アースがアースに戻るとき/宮澤夕貴①

2年前、“波”は確かに新しい風を掴みました。
その風もまた、手探り状態とはいえ、
“波”ともに吹く心地よさを感じていました。

富士通レッドウェーブのパワーフォワード、
宮澤夕貴選手(コートネーム:アース)。
日本を代表する3ポイントシューターがレッドウェーブに移籍し、
新しい風を吹かせたのは、2021-2022シーズンのことです。
その年、レッドウェーブは6年ぶりのファイナル進出を果たしています。

しかし翌年、その風は思いもよらず、逆風へと変わってしまいました
リーグ6位でフィニッシュ。
悔しさは残ります。
しかし宮澤選手はこう言います。
「後悔はしていません」

移籍の難しさを痛感した2年間

移籍とは文字どおり、在“籍”するチームを“移”ることです。
しかし、移籍がすなわち成功ではありません。
大切なことは移籍先でいかにフィットしていくか。
自らの価値を上げられるか。
チーム文化も異なれば、バスケットのシステムも異なります。
まずはそれらに慣れなければいけません。
何度も日本一を経験し、日本代表を経験した宮澤選手でも、それは同じです。
「1年目は、とにかく『やるしかない』という感じでした。レッドウェーブのバスケットに慣れることにもすごく時間がかかりましたし、結果は準優勝でしたけど、気がついたら終わっていたというシーズンでした」



レッドウェーブの文化やスタイルにも慣れた2年目は、
少しずつ余裕が生まれていました。
コンディションも悪くなかったと言います。
しかし落とし穴は突然、その口を開きます。
シーズン中に2度のケガを負ってしまったのです。
自らのパフォーマンスを発揮しきれないまま、シーズン終了。

ただでさえ、ベテラン選手が抜けチームは若返っていました。
経験不足も手伝って、流れが悪くなったときに、
キャプテンとしてまとめきれなかった。
プレーヤーとしてもチームに貢献できなかった。
宮澤選手は歯がゆさをそう振り返ります。
「でも自分の中では、プレーができなくてもできることをやろうとしたし、きちんとベストを尽くしました。そこへの後悔はありません」

そう発した直後、思い出したかのように、心残りがあったと語ります。
「レッドウェーブに移籍するにあたって、『思ったことはきちんと伝えよう』と思っていたんです。ただ、細かいことをどこまで言うべきか。それについてはすごく考えて、昨シーズンは言わなかったこともありました。そこだけですかね、後悔しているのは……」

コート外の細かいことをどこまで伝えるべきか

宮澤選手が言わなかったこととは、たとえば、こういうことです。
手を洗ったとき、跳ねた水滴が洗面台に残ることがあります。
どの家庭でも見られる、生活のワンシーン。
その水しぶきを拭き取るか否か。
「普通、自分が手を洗って、飛んだ水しぶきは拭くと思うんです。そういった気遣いはプレーにも出ますから。プレー面だけではなく、そうしたコート外での振る舞いもすごく気になっていました。
ENEOSサンフラワーズでは当たり前のように拭き取られていたと、宮澤選手は認めます。
しかし、少なくとも昨シーズンのレッドウェーブでは、それが常態化されていませんでした。

ENEOSが正しい、レッドウェーブが間違っている、と言いたいわけではありません。
ただ、生活の些細な面まで気を配っているチームが頂点に立ち続け、
その頂を目指しながら、到達できていないチームがそれをしていないのであれば、
取り組む価値はあるのではないか。
宮澤選手はそう考えたわけです。
「ただ、それはレッドウェーブに移籍しなければ、わからないことでした。レッドウェーブに来て、『あれ?』と。『これって当たり前のことじゃないのかな?』と思うことがいろいろあって、それをどこまで言うべきなのかを迷っていたんです」



コート外だけではありません。
練習の準備の仕方も、それぞれのチームに特色があるとはいえ、
「これでいいのか?」と不安に思わずにはいられないところがありました。

だた、昨シーズンのレッドウェーブは若返りを余儀なくされていて、
若い選手にどこまで伝えるべきか。
彼女たちも、チームの勝利のため、精一杯の努力を重ねています。
それを見ているだけに、不要な説教になってしまうのではないか――。

昨シーズンは移籍2年目で、キャプテンにも就任。
町田瑠唯選手を除けば、チームメイトはみんな、いわゆる後輩です。
性格も優しい選手たちが多いぶん、強く言いすぎるとチームとしてのまとまりを欠いてしまうのではないか。
そんな思いもまた、一歩を踏み越えられなかった要因だったかもしれません。

「バスケットをしている」楽しさをコートで

しかしながら、残された後悔は、宮澤選手の成長の糧になります。
ベテランと呼ばれる域に入っても、成長を止めるわけにはいきません
それはまた人間性だけでなく、プレーヤーとしても同じこと。

「ENEOSのころは、ほとんどノーマークでシュートを打つことが役割でした。でもレッドウェーブではそうもいきません。アドバンテージがないなかで、いかに自分の強みを出していくかを考えてプレーをしています。前のチームでは『生かされる』という感じでしたが、今は『バスケットをしている』という感覚がすごく強いんです。だからこそ楽しいし、悔しい。そういう気持ちはレッドウェーブに来て強くなりました」

高校時代は全国屈指のオールラウンダーとして注目されていました。
それがENEOSでの9年間を通して、日本屈指の「3ポイントシューター」へと成長し、
そしてまた地元・神奈川をホームとするレッドウェーブで、
高校生のときとは異なるレベルのオールラウンダーに生まれ変わろうとしています。
今シーズンはポストアップからのプレーも練習していると言います。
「『ああ、この感覚、久しぶりだな』って思いながらやっています」
そして、こう続けます。
「それが楽しいんです」



宮澤選手のコートネーム「アース」は、高校の恩師につけられたものです。
当時を彷彿とさせる、いや、それ以上のプレーが見られるのか。
高校を代表するオールラウンダーから、日本屈指のオールラウンダーへ――
2023-2024シーズンは、アースがアースとして戻ってくるシーズンになるのです。



#52 PF 宮澤夕貴 Yuki Miyazawa


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