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温泉を楽しんだらいつの間にかドッグランにいた

私と夫は無類の温泉好きである。

人間の60%は水分で出来ているらしいが、その60%の水分のうち70%くらいは温泉で出来ている。といっても過言ではないくらい、温泉好きだ(過言)。

温泉好きになったのには理由がある。
何を隠そう、私たち夫婦は北海道出身。
北海道といえば自然や食べ物が一番最初に浮かぶだろうが、温泉街としても有名だ。

温泉街から車で30分程度の場所に住んでいた私たちは、当たり前に温泉との距離が近かった。
卒業旅行、親睦会と言ったら第一候補は温泉だ。むしろ第二候補がない。温泉以外に候補がない。誰も反論せず、皆温泉旅館に行くのだろうと思っている。
むしろ「グランピングしない?」なんて言おうもんなら、皆聞いたことのない単語に驚きもれなく蕁麻疹が出る。
スノーボードやスキー旅行に行くことになったら「温泉ついてる?」と確認するやつは必ず一人はいる。少なくとも私はそのセリフを毎回聞いてる。私が確認しているので。

それに合わせて、学生時代過ごした狭い狭い町から温泉が出た。
デカいショッピングモールができる予定の場所で地質調査を行ったら温泉が出たらしく、ショッピングモール計画は頓挫。そこは温泉施設になった。
だから高校時代、汗をかいたら温泉に行き、温泉で汗を流し温泉を飲んで(これは嘘)育ってきた。
私たちにとって温泉というのはとても身近な存在で、癒しの定番コースなのである。

そんなこともあって、私たちは無類の温泉好きだ。
温泉というのは私の世界を形成する要素のひとつであり、温泉がなければ生きていけない。
ノー温泉ノーライフ。それが私たち夫婦である。

そんな私たちの温泉ライフは、もちろん子供が生まれてからも続いた。
普通は子供が生まれたら、しばらくの間は温泉なんていかない。
まずうるさい、荷物が多い、寝ない、夜泣きが気になる、ゴミが出る、うるさい、寝ない、ゴミが出る、うるさい、荷物が多い。
こんな具合に立ちはだかる壁はいくつもあるのだ。

でも、先ほども言ったがノー温泉ノーライフ。それが私たち夫婦である。
私たちは必死に考えた。
「子供を連れて温泉に行ける場所はないか」と。

最近は「子連れ歓迎♡」なんて名目で、子連れ旅行を推奨している宿は多い。しかし、どれも基本的には「(常識的な範囲で大人しくしていられる)子連れ歓迎♡」なのである。

・食事の時に大人しく座っていられる
・食事を手づかみで掴んだあとに壁に投げない
・障子を破らない
・廊下を騒がない
・夜泣きしない
などなど。

正直に言うが、これに全て当てはまる子供はほとんどいない。子供はひたすらうるさいのだ。
そして寝ない。絶対に寝ない。

子供が生まれてから一年は我慢した。しかし私たちの我慢は一年しか持たなかった。
なぜなら、長女の夜泣きが収まったのだ!!
まさに奇跡。彼女は私たちの元に生まれるべくして生まれてきた奇跡の子だった。

さっそく子連れ歓迎♡の中でも一番うるさそうなところを選んだ。
ここで重要なのは「うるさそうなところ」ということだ。

夜泣きしないとはいえ子供は子供。
やっぱりうるさいので、大人が有給を使い贅沢な非日常を満喫している場所には行きたくなかった。
どちらかというと重い腰を上げ渋々使った有給で仕事よりも疲れる旅行を家族の思い出のために使っている疲れ果てた大家族がいるようなところがよかった。

その中でも私たちは特に一つの温泉施設が気に入った。

何がいいって皆騒がしいことだ。
プールもあり、キッズスペースもあり、夕飯も朝食もバイキングで、なによりみんな私たちよりうるさかった。

最高である。

それから毎年、下の子が生まれてからもその温泉に行くのが私たちの楽しみになっていた。

そんなある日の帰り道。車の中。
静岡から都内まで長い道を帰ろうとした序盤の出来事だった。

──腹が、減った。

温泉で泊まったあと、伊豆ぐらんぱる公園で体力を全部使い果たした後、私たちは猛烈な空腹と戦っていた。
普段は「疲れた」と「今日の晩飯なに?」しか会話しない私たち夫婦が乗る車内は定番のご飯話題で持ち切りだった。

普段会話なんてほとんどしない。
業務連絡。今から帰る。疲れた。今日の晩飯何?
これが毎日繰り返される。
長く過ごした夫婦の間では言葉なんていらない。大体のことはわかっているからだ。
なんて言えば絆の強い夫婦と思われるかもしれないが、正直飽きている。
もう毎日毎日顔を合わすしお互いの仕事があるしで、変わることは毎日食べるご飯のメニューくらいしかないのだ。
だから自分の空腹を少しでも感じたら、「何食う?」と聞いてしまう。夫も「何食う?」から会話を始める。

「スープカレー」

私と夫はほぼ同時に口にした。
道路脇にある看板に、デカデカとスープカレーの写真が載っていたのだ!
私と夫は無類のスープカレー好きである。
そんな私たちの元に現れた、スープカレーの看板!!!

これは天の思し召し!と言わんばかりにテンションが急上昇する私たち。
当時20も後半になった男女とは思えないほどの盛り上がりだった。

私たちは完全にスープカレーモードになった。
絶対にスープカレーを食う!と一度通り過ぎた場所に戻るべく適切な場所で方向転換して元の場所に戻り、さあスープカレー!と子供2人抱えて店内へ。
凄まじい執念である。

いらっしゃいませ、と迎え入れられた先はなんと犬!犬犬犬犬見渡す限りの犬だ。

なんとそこはドッグランだったのだ!

そして肝心のスープカレーは、2500円だった……。

たっか………。

本場のスープカレーですら1000円程度で食べられるものが2.5倍の値段だった。
しかも小脇に抱えるのは犬よりも静かにできない我が子供たち。

私たちは言葉もなくそのまま店を出た。
夫婦生活が長くなると言葉なんていらないのである。

あれが上級国民か、と我々庶民は涙を飲んだ。
ただでさえ金のかかる犬を飼って、旅行して、2500円のスープカレーを食べられる人たちは存在するのだ。

それからというものの、ドッグランの前を通る度にその話をするのがテッパンになりつつある。

そう、夫婦の会話は同じことの繰り返しなのだ。

どなたか新しい話題ください。

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