「人間専用メモリースティック」

最近、熊の出没が増えている。どうやら本当らしい。僕も思いがけず「クマ」に遭遇した。

旅券を再発行するため、戸籍謄本を取りに久方ぶりに伊丹市役所へ赴く。建て替わっていることに驚き、隈っぽいなと思いつつ、手続きを済ませる。思ったより早く終わったので建物を徘徊。三沢厚彦と棚田康司の超イケてる作品がガラスで囲うことなく、動線の中に配置されているセンスと心意気に酔う。ほろ酔いで案内センターの人と会話してみた。

「なんで三沢さんと棚田さんなんですか?」
「すみません、わかりません、でも建築は隈研吾さんなんですよ」
「やっぱり。隈っぽいと思ってんな~」
「建築をお好きな方はみなさんよくそうおっしゃいます」
「なんで隈さんなんですか?」
「市長と同級生で親交があったそうです」

偶然か必然か、僕の鞄には隈研吾著『反オブジェクト』が入っていた。三沢と棚田の作品は建て替え前の市役所前に並んだ楠を使って製作されたものだ。その楠から彫り出された椅子に腰かけると当時の記憶が蘇ってくる。20年前に向かいのサイゼで草野球帰りに飯食ったこと、役所前のロータリーで夜中スケートボードを蹴り上げてたこと。

木は人間専用メモリースティックだ。鉄やコンクリートにその役割は担えない。木はとても人間的だ。木は関係性を呼び起こす。守るべきものは木であり、持続可能性であり、端的に言って友達だ。それは反オブジェクトを志向するクマからのメッセージである。

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