変な話 『下痢』

 妊娠した男がいた。悪阻が酷く、全ての感覚が不快に感じられゲーゲーと事あるごとに吐いた。妊娠十二週であった。

 悪阻も酷かったが、ある時お腹を下した。昨晩、悪阻でも唯一食べる事が出来た梅干しを、調子に乗って食べ過ぎてしまったせいだろう。

 男は、トイレに篭り唸っていた。お腹を下し下痢にも関わらず全く出る気配がない。下腹部はギュルギュルと活発に動いているのに全く最後の門をくぐり抜けられない。

 男は、もう一つ問題を抱えていた。近頃の男は便秘だったのだ。

 出口には、それまでの水分を失い硬く固まった”便秘便”が栓となりその上から”下痢便”が玉突き事故を起こしている状態であったのだ。

 男はお腹をさすりながら一生懸命力もうとした。ここでふと、思った。このまま力んでウンチを出してしまったら、お腹の赤ちゃんまでウンチと一緒に出てしまうのではないかと。

 男は、昨日の自分と唯一頼りにしていた梅干しを心底恨んだ。飼い犬に噛まれるとはこの事だ。「信じていたのに!」「なんて日だ!」「梅干しよ、お前もか!」今なら心の底から裏切られた時の名台詞を言えるだろう。このまま大腸が破裂し死んでしまうのか。下痢便の中からころりと転がる便秘便が憎い。これが梅干しの種だったのなら尚憎い。出さない訳にはいかない。だが力み過ぎてはお腹の赤ちゃんが。力まなさ過ぎては、便秘便がびくともしない。

 そんな事を考えているうちに、いつもの上手な力み方がわからなくなり、それからしばらくは、何とも間抜けな屁しか出せなくなってしまったのである。


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