狂気袋
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杉並区役所から回覧メールが来た。
「杉並ショップ閉店感謝
狂気袋、30%OFF
残僅、希少」
とある。
「いいのかね、こういう宣伝」
「宣伝になってないでチュー」
「え」
「杉並ショップってどこにあるでチュか」
「たしかに場所も連絡先もなにも書いてないけど。びすも知らないの?」
「はじめて聞くでチュー」
「ふーん。狂気袋ってなんだろうな」
写真も価格も、一切のデータがないから、よけい気になる。
「わからないでチュー」
「圧縮袋とか祝儀袋とか、なんか袋って気になるものが多いよなあ」
「フクロネズミは有袋類でチュー」
「おおー、いいなー有袋類。内側に空間がある感じがいいんだな」
ますます欲しくなってきた。
「おい、びす、出かけるぞ」
街に出た。
交番で「杉並ショップってどこにありますか」と聞いてみたが、わからないという。
「杉並王宮に行ってみようか」
てっきりここにあると思ったのだが、シーンとしている。当てがはずれた。
家に向かってとぼとぼ歩いていると、体中に袋を巻き付けた男がぐるぐる回転しながら走っているのを見かけた。
「あれだあれだ。あれがたぶん杉並ショップだよ」
「名前だったんでチュね」
「じゃ、あれは閉店感謝の踊りか」
袋がぼろぼろ剥がれ落ちているので拾ってみた。
ピンク・フロイドの写真がプリントしてあるだけの安物だ。狂気って、それだけの意味だったのね。
「現実はそんなものでチュー」
その後、地下鉄の車両ですっかり憑きものの落ちた杉並ショップの姿を一度だけ見かけたことがある。私はといえば、あの時拾った狂気袋をエコバッグとして近所のスーパーでありがたく利用させてもらっている。
いざとなったらこの袋に長ネギを入れて振り回し、大暴れしてみたいが、残念ながらそういう機会はまだない。
(了)
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