架空請求

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「おーい。大石、経理部が呼んでたぜ」
「またかよー」
「今度はなにやったんだ?」
「心当たりありすぎ」
「よけいなこと言うんじゃないぞー」

「大石、まいりましたー」
「まいりましたーじゃないでしょ」
 優子ちゃんが仁王立ちして待っていた。
 ひらひらと請求書を振る。
「なによこれ」
「やー、優子ちゃん、読めないんだー」
「難読クイズじゃないんだから」
「ひ、う、ち、い、し」
「どこが経費なのよ」
「プレゼンに燧石は欠かせないでしょ」
「じゃ、これは。ねずみーらんど」」
「タクシーの運転手がシャレのわかる人でさー」
「どこから行けば23万円になるのよっ」
「もう優子ちゃんたら勘違いしちゃってー。日本じゃないよ。中国のネズミーランドだよ」
「じゃあどうして日の丸タクシーなのよ」
「あっ」
「却下」
 ビリッ。
「ああー、おれの23万がー」
「これなんか、日本語でさえないじゃない」
「そんなのあったっけ」
「これ」
「んー、これはー」
「なによ」
「なんだろうね」
「わかんないものを請求しないで」
「アラビア語だと思うんだけどさ。秋葉原の路上でアラビア人から買ったんだよねー。これなんだけど」
「なにこれ」
「ぷにぷにしてるでしょ」
「うん」
「触っていると落ち着くんだ」
「だからといって、経費にはなりません!」
「やっぱり……」

「おーい、大石。なにぶつぶつ言ってんだ」
「優子ちゃんに呼ばれてさー」
「だから経理部に優子なんて子はいないって何回言ったらわかるんだよ」

(了)

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