他人任せ

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 ひさしぶりに「ちょっと儲けたろか会議」が開かれた。
「えー、私はちょっと儲けたろか部の部長だが、部下の君たちのほとんどは課員であると同時に社長だ」
 といって、議長はあたりを見回し、とくに大文字長治郎のところではじとっと睨んだ。
「おまえがいらんことを言ったせいで社内に会社が乱立し、もはや我が社はなにをしているのか、私にもよくわからん。各自、業績を報告するように」
 各人が起業の失敗や成功の事例を述べた。
「この不況だ。ぜんぶの起業がうまくいくとは限らん。畳むところはなるべく早く畳むように」
 一時は社内起業が3桁に達し、1社あたりの持ち時間が45分に短縮されて、取引企業から「おたくは小学校ですか」と揶揄されたこともあった。いまは事業の整理と社内スペース配分効率化で、一人あたり日に3社程度の切り替えで回転している。
「あのー」と長治郎が手を上げた。「まことに申し上げにくいことですが」
「言わなくていい」
「いえ、私の話ではないのでご安心を。部下の安藤君が起業したいということですので、ご紹介したいのですが」
「ほお」
「ほら、安藤、立て」
「はっ」
「こいつは安藤達夫と申しまして、エコハウスで設備関係を担当している男です」
「よろしくお願いします。エコハウスのセキュリティを考えていたのですが、緊急時の呼び出しや体調の悪化など、さまざまなことに個別に対応しようとするとどうしてもコストがかかってしまい、エコハウスの趣旨と合いません」
「ま、安さが売り物なんだから、そのへんは我慢してもらわないと」
「現状は仕方ないですが、高齢化が進むと避けて通れない問題です。いまでも歳をとって住んでいた家を放り出された住人が多いわけですし」
「ううむ」
「そこで、他人任せにすることを考えてみました」
 部長は深くうなずいた。
「それは正しい方向性だぞ」
「人が自分から一日に何回も手に取るものはなんでしょう」
 部長は首を傾げてから言った。
「まあ、携帯とか、いろいろあるだろ」
「そうです。携帯です。携帯電話が持ち主のことを観察して、アドバイスや自動緊急通知をすればいいのです」
「で?」
「携帯キャリアに相談しました。いいアイデアだ、メーカーが作ってくれればすぐに販売すると言われました」
「うむ。他人任せだな」
「メーカーに行きますと、いいアイデアだ、作ってくれたらすぐに採用すると言われました」
「うむ。他人任せだな」
「これ以上行くところがなくなったので、私が作ろうかと」
「任せた」

(了)

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