猫が出ました

 息子は典型的な理系男子で、帰宅すると自室に籠もってなにやら実験している。
 学校で実験し、バイト先でも実験し、家でも実験。よく飽きないものだ。
「なにやってんだよ」
 と聞いても教えてくれない。
 そんな息子もぶじ就職が決まり、地方へと旅立っていった。いずれ東京に戻ってくるが、数年間は地方を回るのがその会社の恒例人事だそうだ。
 息子の部屋があいたので荷物置き場とし、私と妻は一階のリビングを片付けて寝室として使うことにした。
 ある日、ばりばりと居間の床を破って猫の集団が現れた。
「にゃーっ」
「にゃーっ」
 と鳴きまくるが、なんだか間延びして変な声だ。
 やがて柱に登って交尾を始めた。
 私と妻が腰を抜かしていると、息子から
「蝉猫、ちゃんと出てきた?」
 と電話があった。
「出てきたよ! どうすんだこの猫の大群」
「あ、エサやってといて。一カ月ほどで死んじゃうから」
「可哀想じゃないか」
「大丈夫。来年も床ぶち破って出てくるから」
「バカヤロー。ぶち破られることがわかってて、誰が修理なんかするか」
 私と妻は二階に舞い戻った。
 リビングでは、いまも猫の大群が群れている。

(了)

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