洗面

 鼻歌を歌いながら顔を洗っていると、
「二十一世紀の精神異常者でチュか」
 とびすが言った。
 よく知ってるなあ。こんな古い曲。
「名作でチュー。歌詞も好きでチュー」
「あ、そうか。猫の足、鉄の爪、だもんな。ネズミにはリアルだよなあ」
「まったく」
 とびすはため息をついた。よほど嫌な目にあっているのだろう。
 私は、顔にシェービングクリームを塗りたくった。これを忘れると、血だらけになる。最近のひげ剃りは恐ろしい。
 つい先日、量販店で買ってきたついでにパッケージをよく読んだら、「452刃」と書いてあった。
 なぜだか知らないが、ひげ剃りの刃というのは、無限に増えていくものらしい。昔は3枚でも十分だったのに。
 物知りの電子ネズミに聞いたみた。
「ヒトのひげは剃れば剃るほど太く堅くなっていくと聞いたでチュー」
 そういうものなのか。
 私のひげは鉄よりも堅い。たしかに、「3枚刃」や「5枚刃」ではもはや剃れる気がしない。しかし、それでは高校生にしてすでに「452枚刃」を使っている息子の将来はどうなるのだろう。
 考えるだに恐ろしい。
 びすといっしょに、
「猫の足 鉄のひげ」
 と歌った。

(了)

ここから先は

62字

¥ 100

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。