予言車

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「うおおおお」
 と予言者は叫び、でっかい錫杖をどんと地面に打ちつけた。
「くる。くる。今年は大きな災いがくる!」
 信者たちはひれ伏した。それでなくても、暗い世相である。これ以上、ややこしいものに来てほしくない。
 来るのは災害であろうか事故であろうかテロであろうか異星人であろうか。
「そ、その災いとは?」
 誰かがか細い声で訊ねた。
 どん。
「災いとは給付金である」
「はい?」
「給付金とは、政府が国民にバラまこうとしているあの金であーる」
 ははあ。よくわからないながらも、皆の者は平服した。
 予言者はひとりを指さした。
「もしあの災い降り来たれば、おまえはなにに使うのかっ」
「や、焼き肉でも食おうかと」
「バカモノーっ」
 落雷を食らったように解答者は跳ね飛んだ。
「と、奥さんに怒られるのではないか? この家計の苦しいときになにが焼き肉よと」
「そ、その通りでございます」
「ではおまえ。おまえはなにに使うのか」
「ちょ、貯金いたしたく存じます」
「なんのための給付金であるかーっ」
「ひえー」
「と、為政者は言うであろう。内需拡大、消費奨励のための給付なのだからな」
「すすすす、すみません」
「では、おまえは」
「わ、わたしは、借金の返済に充てようかと」
「貸し渋りの金貸しを喜ばせてどーするんじゃー」
「ごめんなさーい」
「というふうに、なにをどうしようと怒られる金、それが給付金なのだ。これを災いと呼ばずしてなにを災いと呼ぼう」
 ざわざわざわ。そうだったんだ、あの金はそんな危ないものだったんだと、さざ波のように私語が走った。
 代表の者がおそるおそる訊ねた。
「そのような恐ろしい災いが降ってきましたら、いかがいたしましょう」
「この地に埋めよ。わたしが善処するであろう」
 やがて、屋根に錫杖を取り付けた特別製のベンツを乗り回す予言者の姿が目撃された。
 信者のひとりがおそるおそる言った。
「あの、せめてプリウスあたりにしておかないと内需拡大にはならないのでは」
「バカモノ。わしは地球全体のことを考えておるのだ」

(了)

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