惨劇

 こうもり傘を開いて、空からひらひらと下りてくる。それがシュールレアリスム探偵だ。
「私が降り立った場所が夢だ」
 そうはおっしゃいましても、と私は思う。スーパーマーケットの前、精肉店の斜め向かいの道路。まさに日常のど真ん中だ。
「君はなにをしている」
「買い物に来ました」
「なにを」
「焼きそばセット3人前。ピーマン。岩手産しいたけ。ビール。それに牛乳とチーズ」
「それが事件だ」
「どこが?」
「君の家の炊飯器にはごはんが炊けている」
「そんなはずはありません」
「いや、私が炊いておいた」
「えーっ」
「ご飯と麺はかぶる。君の妻はそれが許せない。ああっ」
 シュールレアリスム探偵は頭を抱えた。恐ろしいイメージにおびえている。
「ああっ、私のせいでこんな惨劇が」
「ど、どうすればいいんでしょう」
「キムチと鮭と味噌、それからほうれん草を買って帰りたまえ。それで事件は未然にふせげるだろう」
「ありがとうございます」
 探偵は風に乗って去っていった。
 私は帰宅した。
 ご飯は炊けていなかった。
「どうしておかずだけ買ってくるの!」
 惨劇が起きた。

(了)

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