ドミノ倒し

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 家の隣の土地が更地になったと思ったら、新しいアパートが建った。
 新しいアパートの大家はなかなか強気で、
「ここ、自転車置き場にしますから、ゴミを捨てないでください」
 と言う。
 そう言われても、そこは、ゴミ回収の場所なのである。大家が勝手に「ダメだ」と言い張っていいものだろうか。
「あそこ」
 と大家は道路脇を指さす。
「ほら、あの道路脇の不動産屋の前もゴミ収集場所なんだからあそこに集約すればいいじゃないですか」
 あまりにも強圧的なので、そこでいいということになってしまったのだが、今度は不動産屋が大あわてした。一気に倍のゴミが集まることになり、歩道の通行に差し支える。もちろん、商売の邪魔だ。
「うちの前もダメ」
 と言い出した。
 今度は、道路の向かい側。
 しかし、そこも……というわけで、街からドミノ倒しのようにゴミ捨て場が消えていった。
 ゴミ捨て場が消えても、ゴミは消えない。どこへも行かず、庭やら家の中で静かに腐っていく。
 街全体がゴミ屋敷と化したようなもので、こうなると、役所も恐ろしくてそう簡単には手を出せない。どれだけゴミを運べばこの事態を解消できるのか、予想がつかない。
 悪臭が限界を超えた頃、最初にゴミ捨て場を拒否した大家のアパートが焼き討ちにあった。更地になったのは一瞬で、すぐにゴミの山となる。区役所は一ヶ月かかりでゴミを輸送した。
 ようやくこれで最後という日。ゴミ収集車がゴミ袋をすべて積み込み終わったあと、広々とした土地にぼろぼろの大家が横たわっていた。
「これが最後のゴミですか」
「そうでーす」
 と、野次馬たち。
 大家はひょいと収集車に積まれ、どこか知らない場所へ運ばれていった。

(了)

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