結託

 蒸し風呂のような外界から戻ってくると、部屋が涼しい空気で満ちている。
「ああ、気持ちいい」
 と呟き、次の瞬間、ぎくっとした。
 誰がクーラーのスイッチを入れたのだろう。
 タイマー機能はついているが、そんなしゃれた機能は使ったことがない。
 オレ以外にこのワンルームに入る者もいないはずだ。
 おかしいな、と思っているうちに、どんどん体が冷えてきた。温度を28度に調節する。
 したはずなのだが、体感温度はいっこうに上がらない。
 リモコンの表示を確認するが、ちゃんと28度になっている。
 あてにならんなあと思い、電源ボタンを切った。が、それがなんですかと言いたげにクーラーは稼働し続ける。
 寒い。夏だというのに凍りそうだ。
 こんな寒さではとても眠れない。
 クーラーの電源を引き抜いてやった。
 それでしばらくはおとなしくしていたが、真夜中に凍えそうな寒さで目覚めた。
 最初はなにがなんだかわけがわからなかったが、よく見ると、冷蔵庫の後ろから電源コードが伸びて、クーラーを支援しているようだ。
 こいつら結託しているな。
 冷やしたい衝動が伝わってきて、ぞっとする。
 もはや気持ち悪さに耐えられない。
 オレは逃げることにしたが、玄関の扉は開かない。電話はつながらない。窓の外は八階だ。
 オレはありったけの服を着込んで部屋の隅にうずくまり、蒲団と新聞紙をめちゃくちゃに巻き付けた。
「眠ったら死ぬ。眠ったら死ぬ。眠ったら」

(了)

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