回答員

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 ぴんぽーん。
 珍しいことに、私立探偵目黒考次郎の住処のチャイムが鳴った。依頼客だろうか。
 そんなことはないだろうと思いつつ、目黒はよたよたと玄関に近づいていった。三日も飯を食ってないので、足に力が入らない。
 ドアを開けると、無理矢理満面の笑みを貼り付けた女が、チェックシートを持って立っていた。
「お忙しいところ、申し訳ございません。アンケート調査にご協力をお願いしたいのですが」
「協力したらなにか食わせてくれるかね」
 調査員は面食らったようだったが、ポケットからいちご味のソイジョイを取り出した。
「これでよければ」
「いい、いい。ナイスチョイス。君みたいな美人の調査員は見たことがない」
 もはや食欲の奴隷となっている目黒は、自分がなにを喋っているか自覚していない。
「では、通販に関する簡単なアンケートです」
「いいねいいね」
「あなたが通販で買いたいと思うものは。次の中から選んでください。下着。健康食品。健康器具。高バサミ。生ゴミ処理機。電子辞書」
「フリー回答もあり?」
「それでもかまいません」
「007のバッグ」
「は?」
「スパイの持っているカバンね。爆発したり、毒ガスが吹き出したり、蘇生セットが入っていたり、鳩が飛び出したりするやつ、あるでしょ」
「ありましたっけ」
「鳩は出なかったかもしれない」
「では、あなたは007のカバンがいくらなら購入しますか」
「五千円」
「ありがとうございました」
 調査員はソイジョイを置いてそそくさと去っていった。
 それからまる二日間、目黒は回答員という職業が成り立たないか真剣に検討していたが、調査員は誰もやってこなかった。

(了)

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