見切り品

「ん」
 私は足を止めた。
 ペット店の窓に「在庫一掃セール」の赤い文字。おまけに、格安見切り品ありと書いてある。
 店に入ってみると、たしかに見切り品の首輪をされた犬猫が大きなワゴンに乗せられている。
「なんでこんなことしているの?」
 と売り子のおねーちゃんに聞いてみる。
「売れ残りなんです。不憫な子たちなんですー。歳をとるともっと売れなくなるから定期的にバーゲンセールをしているんです。買ってあげてください」
「この猫は? まだかわいいじゃん」
「あー、これはもうおばさんで」
「は?」
「若作りなんですよ」
「そ、そっかー」
「あ、私は違いますよ」
「誰も君のことは聞いてない」
「なんだ」
「なんだってなんだ」
「私もいまちょうどバーゲンセール中で」
「悪いね。おれ結婚してんだ」
「なんなら奥さん、引き取りますよ。見切り品扱いでよければ」
「うちの奥さんは人間だよっ」
「それがどうしたんです?」

 不愉快な気分で店を出たが、次の日、妻を誘って、また同じペット店を訪ねてしまった。自分でもなにをしているんだかわけがわかんない。
 昨日のおねーちゃんが近づいてきた。
「あのさ」
「わかっております」
「なにが」
「まだ引き取りサービス中ですから」
「そんなのじゃないって」
 あっ、という間もなく、妻は店の奥に連れて行かれた。
 見切り品の首輪をした猫がワゴンに追加される。
 猫は涙に濡れた目で私を見上げた。
「この猫、かわいいのに見切り品にしちゃうの?」
「だって、若作りですよ」
「君、そればかりだな。これにするよ。この猫、ちょうだい」
「ちぇっ」
 猫はぽんっと音をたてて人間の姿に戻った。妻は鬼の形相をして私を殴り飛ばし、「これ、引き取って」と言った。
 私はヨレヨレの土佐犬になった。
「くうーん」
 と鳴いてみたが、相手にもされない。
 妻はシェパード男を買って、意気揚々と引き上げていった。

(了)

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