映画干渉

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 頭がよほど単純にできているのか、映画を見て眠ると、かならずや影響を受けた夢をみる。
 「モンゴル」は、チンギス・ハーンを日本人の浅野忠信が演じている不思議な映画だ。監督はロシア人で、撮影場所は中国のモンゴル自治区という、ややこしいことこの上ない取り合わせである。
 少年時代に盟友となったジャムカに助けられながら戦いの日々を送り、やがてジャムカと対立して、モンゴル統一のための大決戦を行うシーンが際だって格好いい。
 戦略あり、騎馬隊ありで、見応えがある。
 案の定、私は夢の中でモンゴルの広大な平原にいた。これから大決戦が始まる。
 お互いの陣営の小手調べが終わり、これから大部隊が衝突する。私はチンギス・ハーンである。騎馬に跨り、戦場に躍り込んでいかねばならない。
 ところが、私が影響を受けるのは映画だけに限“らず、しばしば昔読んだ小説も出てくる。
 筒井康隆の「中隊長」が出てきた。何度馬に跨っても、逆向きに跨ってしまうのだ。部下たちが私を不審な目で見ている。当たり前だ。
 チンギス・ハーンである私はあせりまくる。この時点ではまだ夢だと気づいていないし、まして「中隊長」の影響など微塵も感じていない。
 馬に乗れないという驚天動地の事態に、立ちすくんでいるだけだ。
 だが、何度も何度も失敗しているうちに、だんだん夢であることや、筒井康隆という名前を思い出し、「あ、中隊長だ」と叫ぶ。
 もはやこの場を逃げ出したくてたまらない。しかし、逆向きで馬の尻を叩けばどうなるか。殺されに行くようなものである。半月の形をした刀で斬られるととても痛そうだ。
 私は延々と、馬に乗るのを失敗する。
 夢はいじわるで、こんな時に限って醒めてくれない。
 苦しさのあまり涙がにじむ。私は失神しそうな意識の中で、浅野忠信さんも「中隊長」を読んだのかなあなどと場違いなことをおもう。

(了)

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