立っている人

 モスバーガーのハンバーガーを公園で食べるのが好きだ。
 週に一度くらいだけど、駅前のモスでテイクアウトし、すぐ横にある巨大な公園に入っていく。緑の道を抜けたあたりにシート敷きOKの芝生がある。
 ベンチが空いていればそこで食うが、たいていは満席なので、折りたたみの一人用シートを敷いて、ジャスミンティーといっしょに食べる。
 至福の瞬間。
 今日もその道を歩いていたら、端のほうにじっと立っている人がいた。言っちゃあなんだが、浮浪者っぽい。ぜんぜん色の合っていないTシャツとズボンを履き、リュックを背負って、微動だにせず立ち尽くしている。
 気になったが、そのまま芝生に行き、モスバーガーを食って、すこし本を読んだ。曇天であまり暑くなく、風も気持ちいい。
 昼休みが終わるのがもったいないと思える日だ。
 重い腰を上げ、シートを畳んでポケットにしまい、公園の出口に向かった。
 さっきの人はまだ立っていた。
 私も立ったまま、じっとその姿に見入ってしまった。
 半眼というか、軽く目をつむっているようだ。
 そのとき、なにか、動きがあった。
 吸い込まれるように、オレンジ色が浮浪者の手におさまる。
 彼はびわの皮を剥き、その場でほんの少しの果肉を食うと、歩き去った。
 空を見上げると、雲を覆うようにして、びわの果実がびっしりと鈴なりになっていた。
 私はおそるおそる空席となった場所に歩み寄って、じっと立ってみた。
 思ったようには落ちてこない。
 もう行こうと思った瞬間、びわがごつっと脳天を直撃した。
 道をころころと転がっていくびわを、悲しい気持ちで眺めた。

(了)

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