OL探偵かおり

「助けて河馬丸!」
 目黒川でのんびり日光浴を楽しんでいた河馬の脳に、かおりの悲鳴が響いた。
 かおりは丸の内OLである。
 河馬丸は丸の内ビルディングに向かってどどどどと駆けた。
 かおりの身に危険が迫っていた。
 課長のノートパソコンからプレゼン用の資料が消滅し、課長は大恥をかいた。時間的にいって、そんないたずらができたのはかおりしかいない、ということになってしまったのである。
「課長ぉぉぉ」
 美香が腕を振り上げ、振り回しながら駆け込んできた。
「かおりのロッカーにこんなものがっ」
 ピンクのUSBメモリーだった。
「なに勝手に人のロッカーあけてんのよ」
 とかおりは言ったが、誰も聞く耳をもたない。
 お追従男の達男がさっそくUSBメモリーを開いた。案の定、そこにはプレゼンテーション資料がある。
「かおり君」
 と課長が威圧的に言った。
「まだ認めないのか」
 課員の数は六人。村松課長、高橋次長、平の達男、道夫、美香、かおり。
 かおりのには、すっかり絵図が見えていた。
 課長は、自分がトイレに立ったときにパソコンを操作されたと思い込んでいる。その時、高橋次長は会議室で取引先の相手をしていたからシロ。残りは達男、道夫、美香、かおりの四人。道夫は「自分はその時facebookに書き込みをしていた」と言い張り、書き込み時間をこれよみがしに見せる。バカじゃないのと思うが、シロはシロだろう。かおりはその時、仕事に集中していたから、周りのことは記憶にない。
 達男と美香はいつものようにくだらないお喋りで時間を時間をつぶしていたに違いない。
 他人にあまり興味のないかおりは課内でも浮いた存在だ。それでも仕事はできるから、面と向かって文句を言ってくる者はない。
 達男と美香が喋りながら課長のパソコンを操作しても、かおりは気づかない。
 犯人はこの二人だ。
 単純バカの考えることだから、達男が実行犯、美香はUSBメモリーを隠したり発見したりといったアリバイ工作担当だろう。
 かおりがすーっと息を吸い込んで、一気に謎解きをしようとしたとき、ばーんと扉をぶち抜いて体長三メートルの河馬丸が駆け込んできた。そのまま、暴れ回る。みんなは、ひゃあーと叫んで逃げ回ったり机の下に潜り込んだりしている。
 あー、めちゃくちゃになっちゃった。
 今日はもう、ここにいても無駄ね。
 かおりは、河馬丸の背中にまたがって、会社を飛び出した。
 こうして事件ともいえない陰湿な事件は、跡形もなく雲散霧消してしまった。
 かおりに「河馬女」といううれしくないあだ名だけだを残して。

(了)

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