（全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。）

「心の悩み相談室開催。杉並区民は無料です」
　という案内が区役所から届いた。
　あの区役所に悩みを相談するのはどうかなあと思ったが、無料という文字に抗しきれず、申し込んでしまった。
　当日。
　受付に行ってみると、やはり相談者は私だけだった。
「また愚かなことをしてしまった」
　と悔やみつつ相談室に入ると、机の上にちょこんと座っているのは電子マウスだ。
「で、先生は？」
「わたしだチュー」
「おまえかチュー」
「真似するなチュー」
「ネズミはネズミの悩みを聞いてろチュー」
　電子ネズミは立ち上がって可愛い両手を振り回した。
「オラはヒト相手の心理療法士だチュー。なめちゃいけんぜよ」
　どこの出身だよ。
「デパートの商品券の使い道で揉めて離婚しそうになってしまったので相談に来たんだが、おまえ、そもそもデパートの価値、無価値ってわかるか」
「そんなつまらんことで来るなチュー」
「けっ。誰が人間様の高等な悩みを相談するか」
　結局、ネズミとも喧嘩して話はよけいこじれたのだった。

（了）