交換不能
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気の合わない携帯を買ってしまった。
とにかく口が悪い。
メーカーに文句を言おうにも、文句をすべて賞賛に変換して伝えてしまう。性格も悪いのだ。
オレはついにキレて、携帯を洗濯乾燥機に放り込んだ。
ゴミ箱に捨てようとまだ余熱のある携帯を取り出すと、
「あっちーな。乾燥ってのは」
とだみ声で言ったので、腰を抜かしそうになった。
「不死身かよ」
「おら水に弱いからよー、水槽に落ちた瞬間から死んだふりしてたんだよ。乾いたのはいいけど、やり方が乱暴だな」
くそー。
「次は洗濯だけにしようって考えてんのか。ろくでもねえ性格だな」
「おまえに言われたかねー」
「やな性格」
「毎日、おまえがそういうことばかり言うから、こういうことになるんだろうが」
「殺人鬼がえらそうに」
「おまえは人じゃない」
「人ほどバカじゃない」
「ちょっとは黙ってろ」
「しゃべるのがオレの仕事」
「違う。オレがしゃべることを相手に伝えるのが仕事」
「伝える相手もいないくせに」
「消えちまえ」
「おれが消えるとおまえはひとりぼっち」
「そのほうが静かでいい」
携帯は羽を生やすと、窓から羽ばたいて出ていった。
オレは喜びいさんで、携帯屋に飛んでいった。
「携帯を売ってください。性格のとびきりいいやつ」
「前の携帯は? 壊れたなら修理しますよ」
「出て行ってしまったんだ」
「じゃあ、戻ってくるのを待っていてください」
「機種交換は?」
「前の機種と交換ならできますが」
親はすでに死に、友人知人の連絡先はすべて携帯が押さえている。よく考えてみれば、オレは携帯抜きに社会とかかわれない。
ばさばさばさ。
性格の悪い携帯が舞い戻ってきた。
「どうだい。まだオレに消えてほしいかい」
(了)
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