大鹿莫大小店

 父の弟の妻の姉の三男という人が亡くなった。親戚には違いないが、会ったこともない。しかし、血縁がことごとく途絶えており、おいらに遺産相続の連絡が来た。
「すげえ! 夢みたい」
 と小躍りしたが、そんなにうまい話があるわけはなく、現金化できる財産はゼロ。田舎にある店を継がないか? という問い合わせであった。
 リストラを食らった直後だったので、おいらはさっそく店を見に行った。特急から鈍行に乗り換え、駅から三十分は歩く。山の中の小さな村落である。
 店には、大鹿莫大小店という看板がかかっていた。
 大鹿は地名だが、莫大小って? これ、なにを売る店なわけ?
 店内はすでに整理されてしまい、商品棚はからっぽだ。
 うーん。
 一から考えるしかないのか。莫大小、莫大小と漢字を思い描きながら東京まで戻ってきた。
 しばらく様子をみたが、不況は深刻化するばかりで、どうにもなりそうにない。
 おいらは、正体不明の莫大小店を継ぐことにした。
 ヒントは大小にある。莫は、莫大な、の莫であろう。大きく見えて小さい、小さく見えて大きい、そういう商品を集めたらいいはずだ。おいらは失業保険の金で仕入れの旅に出た。
 トマト大の山椒。はい、いただき。
 スイカ大のトマト。いただき。
 メロン大の珈琲豆。いただき。
 自動車大の爪切り。迷ったが、いただき。
 子猫大のライオン。いただき。
 鮭より小さなヒグマ。いただき。
 大柄なチーママ。いただき。
 爪楊枝を使わないと数字キーが打てない携帯電話。いただき。
 フラフープのストラップ。いただき。
 というわけで、ついに大鹿莫大小店は再オープンにこぎつけた。
 村人は言った。
「で、メリヤスはどこにあるんじゃ?」
「はい?」

(了)

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