阪神巨人

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 ボクは思い切って大原さんに声をかけた。
「は、は、は」
「どうしたの。おかしいの? くしゃみ?」
「は、は、は」
 だんだん息苦しくなってきた。はじめてのデートの誘いはうまくいきそうにない。でも、言いだしたからには、なんとかしないと。
「阪神巨人、行かない? チケットもらったんだけど」
「どっちの?」
 ええーっ。どっちのといわれても。ボクは内心であせった。決めとかないとまずいのかな。あ、応援席とかそういうことかな。
「野球、漫才?」
「あ、ああ。野球のほう」
「ゴメン。あたし、野球に興味ないんだ」
「じゃ、漫才のほうにする」
「すごーい。そのチケット」
「そ、そうかな」
「どっちにでも使えるんだ」
「いや、じつはまだ買ってないの。大原さんの好きなほうにしようと思って」
「なーんだ。でも、あたし、漫才もそんなに好きじゃないんだ」
「あ、ゴメン」
「べつに君が謝らなくても」
「ぼく、いつも言葉がちょっと足りないんだ。さっきも、阪神巨人戦って言ってれば、野球だってすぐわかるのにね」
「えっ、そんなことないよ。わたしの頭のなかでいま、巨人さんと阪神さんが戦ってるもん」
 それは、すぐ勝負がつきそうな気がする。
「まだ戦ってる?」
「うん」
「阪神さん、意外な健闘だね」
「だって、高周波音みたいな声だもん。巨人さん、耳塞いでうずくまってる」
「ああ、そういう展開なんだ」
 そのあと、三十分くらい大原さんから阪神巨人戦の実況を聞いて、わかれた。あとから思えば、それがぼくたちの初デートだった。

(了)

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