睡眠導入
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「さささ、こちらへどうぞ。どうぞどうぞ」
暗いほうへ、暗い方へ導いていくあの背中は誰だ。
わたしはついていこうとするが、つい横道にそれてしまう。
村祭りでもやっているのか、遠くから太鼓の音がきこえてきた。
「楽しそうだなあ」
ワクワクした気持ちになり、わたしは夜道をたどりはじめた。
「ダメですよ、iPodなんか聴いてちゃ」
声はわけのわからないことをいう。その途端、ふっと太鼓の音が消えた。
わたしは意地になって道を歩き続けた。
道はだんだん明るくなり、わたしはいつの間にか村祭りのなかにいた。
いたるところに炎が噴き上がる火祭りだ。
泥人形売りの口上に聞き惚れていると、
「スタンドの灯りは消しましょうね」
と、またあの声。
「あ、祭りが」
わたしはまた暗闇のなかにもどる。ひとりぼっちで淋しい。
「クスリを追加しましょうね」
冷たいものが喉を落ちていく。
落ちていく。
(了)
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