万能シャンプー

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 いつも台所用品を買っている雑貨店で、万能シャンプーを見つけた。
 シャンプー+リンス+コンディショナーあたりまでは知っているが、万能というからにはもっといろいろ足しているに違いない。養毛、染色、蚤取り。さてなんだろう。
 効能書きを読んでみたが、商品名とメーカー名、値段しか書いていない。
「おじさん、これ、サンプルある?」
「ないね」
「使ってみた?」
「いや、それ一個しか入荷してないんだよ」
「ふーん」
 630円。とくに高いとも思えないし、試してみるか。
 家に戻ってさっそくシャワーを浴びた。万能シャンプーを髪に振りかけ、泡立てると、泡の中から巨大な人影があらわれた。
「わ、あなたは誰ですか」
「私はシャンプーの精、ジン」
「ら、ランプから出てくるのでは」
「ランプはもう時代遅れなんでなあ。シャンプーにしてくれと頼んだのだ。アラジンの魔法のシャンプーって書いてなかったか?」
「万能シャンプーって書いてありました」
「あのバカたれが」
 と魔人は誰にともなく呟き、大声で宣言した。
「私はジンである。魔法の力によって、おまえの願いを三つまでかなえよう。しかし、おまえはもう質問を二つしたな。お前は誰か。ランプから出てこなかったのはなぜか。残りはひとつだ」
 私は思わず口を押さえた。ま、まずい。ここはよく考えて。金か? 長寿か? 絶世の美女か。
 あ、シャンプーの泡が目に沁みる。
「痛い痛い。泡が泡が」
「よし」
 魔人は大きく頷き、そのとたん目の痛みがすーっと引いていった。
「おまえはなかなか慎み深いやつだな。では、さらばだ」
 結局、そういうオチかよ。
 髪を洗い流しながら、私は組番号違いのはずれくじを手にしたようなむなしさを味わっていた。

(了)

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