不況

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 がたごとがたごと。
 床が揺れている。
「えっ」
「お、目、さめたか」
「とうちゃん、ここどこ」
「新しい家だ」
「なんか揺れているけど」
「引っ越し中だからな」
「えーっ」
「テント住まいも飽きたし、家を建て直す金もないしで、土地売っちまった」
「でもまだローン終わってないでしょ」
「土地売ったら残金くらい払えるさ」
「こんな不況なのによく買ってくれる人がいたねえ」
「エコハウス社だよ」
「あ、なるほど」
「それでエコハウスを買った」
「道理で小さいわけだね」
「ま、テントよりマシだ」
「どこに住むの。あまり遠くはいやだよ、学校があるんだから」
「あ、おまえの高校な。杉並区の耐震構造破壊検査で崩壊しちまったそうだ」
「うそ」
「ヒグマ師匠が頑張ったらしい」
「そんな迷惑な」
「おまえは今日から行くところがない。することもない」
「うれしいような悲しいような。で、どこに向かっているの」
「聞いて驚くな。日本周遊だ」
「とうちゃん、話がかみ合ってないよ」
「エコハウスは、エコハウス社の持っている土地にならどこにでも引っ越しできるのは知ってるだろ」
「うん」
「調べてみたらフェリーの甲板も押さえていたんだな、これが」
「ひー」
「というわけで、土地を売った金もまだ少しあるし、旅をしよう」
「旅はいいけど、それって住所不定ってことじゃないの」
「不定っちゃ不定だけど、手紙はにっぽん丸甲板で届く」
「手紙が届けばいいってもんじゃないと思うけど。住所不定っていうより住所移動だな」
「ははは。うまいことをいう」
「住所沈没にならなきゃいいけど」

(了)

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