人体の不思議

 わたしは胃腸を病み、神経を病み、腰痛に悩み、偏頭痛持ちの不眠症だ。病気は増えることはあっても減ることはない。ということは、クスリもまた。
 いつの頃からか自分が毎日何錠のクスリを飲まなければいけないのか、数えることもやめてしまった。
 なにか副作用が出るたびにそれを押さえるクスリを追加し、その副作用止めのクスリにまた副作用が出るものだから、もはや医者にも整理がつかなくなっているのではないかと思う。
 ゴミが地層になった片付けられない部屋を見ているようだ。
 わたしの予想では、本当に必要なクスリはあっても十種類くらいで、積み上げた石が崩れないようにその数十倍のクスリを飲んでいるのだと思う。
 クスリの交通整理をするには入院しなければならないのだが、わたしの場合、症状が精神的なものから肉体的なものまでひろく分布しているため、受け入れてくれる病院がない。
 困ったのは、妻もわたしと同じくらい多くの病状を抱え込んでいることだ。日常生活には支障ないレベルだが、私と同じく毎朝、ざあらざあらとクスリを流し込んでいる。
 一度大変なことになった。
 寝ぼけていてよく確認もせず、袋のクスリをざあらざあらと流し込んでいたら、お互い、相手のクスリだったことがある。
 私は一瞬にして髪がまっ白になり、背中が盛り上がってこぶができ、信じられない量の大便が出続け、目は霞み、背中から頭にかけて鳩が歩き回り、思ったのと反対の方向に足が動き、声が枯れた。妻は宙に浮き、しっぼが生え、肩の人面瘡がクスリは飲んだかとしつこく確認し続け、姿勢を変えるたびに激痛が走り、涙が止まらず、ため息はライオンの咆哮となった。
 お互いを指さし、
「毒を飲むな毒を」
 と叫び、別居したのはいうまでもない。

(了)

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