杉並テレビ

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 杉並区から回覧板メールが届いた。
「杉並区はNHKの難視聴地域です。受信料を支払う必要はありません。もし、何度も督促された場合は、杉並区難視聴対策室までご相談ください」
 えっ、そうだったの。
 さっそくテレビをつけて1チャンネルにしてみると、たしかに画面がぼわぼわして、なにがなんだかわからない。
「妨害電波を流しているでチュー」
「えっ」
 びすは杉並区役所の内情に詳しい。
 よく聞いてみると、杉並区はどうもTOKYO MXテレビのような独自チャンネルを開設したいのだが、総務省に邪魔されてうまくいかないので、実力行使に出たらしい。NHKを潰して帯域をあけるつもりなのだ。
「いま、全国の自治体に手紙を出して、共闘態勢を作ろうとしているでチュー」
「戦国大名かよ」
「すでに半分近くの自治体から賛同を取り付けて、絶縁隊を組織しているでチュー」
「絶縁隊?」
「これでチュー」
 びすがテレビ画面に写真を転送した。お歯黒のような真っ黒な歯をしたネズミが黒服に身を包んでいる。ケーブルを噛んでも感電しないセラミックスの歯だそうだ。まるでおもちゃの忍者部隊である。
「まさかおまえはやらないよなー」
「武闘派じゃないでチュー」
「絶縁隊はなにするの」
「NHKの放送設備をかじるでチュー」
 悪い冗談としか思えなかったが、一年後、ほんとにNHKは倒れてしまった。NHKがもっていた帯域は各自治体に解放され、杉並区は杉並総合ひとテレビと、杉並教育ネズミテレビを作った。
 人気があるのは当然、教育テレビのほうだ。
 ネズミがヒトと共生するための知恵を学ぶための番組が並び、ひとが観てもけっこう面白い。
 さっきはびすといっしょに「ひとの食べ物初級編第3回はしとスプーンの違い」を観た。
「ひとの生活はいろいろと面倒でチュー」
「まあね。でも、そんなこと言ってると、次の番組をみると卒倒するぞ」
「なんでチュか」
「ひとの化粧だってさ」
「化粧ってなんでチュか」
「オレも知りたい」

(了)

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