密室の方程式

「目黒くん、密室殺人だ。いっしょに来てくれ」
 と、なじみの警部に言われた。目黒考次郎は、あわてていつもの名探偵衣装に着替えると、警視庁の車に乗った。車は飛行場に着き、直行便で種子島へ。
「こんな場所で殺人事件ですか?」
 と聞くと、警部はまだまだと笑った。
「現場は日本初の宇宙ステーションなんだ」
「は?」
「作業していた宇宙飛行士は一人。まわりは真空。な、完全な密室殺人だろ」
「そうですが……犯人、いないじゃないですか。自殺か病死でしょう」
「それは見てみないとわからない」
 警部と鑑識係は、「わあー」と叫ぶ名探偵を押さえつけ、シャトルに乗って地球を飛び立った。
「さあ、接合するぞ」
「よくたどり着きましたねえ」
「まあ、まぐれだな」
 パイロットは宇宙服を着たまま死亡していた。
「死亡原因は、窒息死」
 と鑑識係。
「二重の密室ですな」
「どういうことだ」
「つまり、宇宙服も密室だということですよ。地上基地との交信記録を調べてみてください」
「あっ、細菌テロの予告が」
「それであわてて着込んだ宇宙服になにか仕掛けがしてあったということでしょう」
「では、犯人は地上にいるということか」
「しかもかなりの確率で、基地の通信係ですな」
「よし、犯人がわかったんだ。すぐに戻ろう。基地に連絡して、シャトルを回収してもらうぞ、って、あれ。おれたちは誰に連絡をとろうとしているんだ?」
 みんなの表情が凍った。

(了)

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