愛国者

 ぼくのじいちゃんはバリバリの右翼だ。
 毎朝、皇居に向かって土下座するチョー右翼だ。
 じいちゃんに言わせると、これは土下座ではなく、遥拝というのだそうだ。
「皇居遙拝、つまり、皇居の方向を望み、頭を下げて敬礼をするのは日本人として当たり前のことだ」
 とじいちゃんはいう。
 敬礼くらいならいいけどなあ、とぼくは思う。じいちゃんは土下座ばかりしているから貧乏になって、家を追い出されてしまった。
 以来、エコハウスに移って、全国を転々としている。じいちゃんは寸借詐欺を繰り返しては、捕まる前に引っ越してしまうのだ。エコハウスはまさにじいちゃんのために作られた家じゃないかと思う。ぼくにはいい迷惑だけど。
「おーい、太郎。お土産じゃあ。今日は警察から電車賃を借り倒してきたぞー」
 じいちゃんが帰ってきた。
「じいちゃん、それ、日本人としてどうなの」
「ワシが崇拝しておるのは陛下だけじゃ。ほかは関係ねえ」
 じいちゃんは家を出る前にも土下座。
 帰ってきた時にも土下座。
「ねえねえ。どうして、どこに引っ越しても皇居の方向がわかるの」
「これじゃ」
 じいちゃんはコンパスを取り出した。
「コンパスは方角がわかるだけだよ」
「なめるでねえ。これは恐れ多くも、天皇陛下の玉体に埋め込んだ電磁波発生装置に反応する特製コンパスじゃ」
「誰がそんなもの埋め込んだんだよ」
「ワシじゃ」
「うわ、ほんとに恐れ多い」
 じいちゃんは右翼じゃなくて、たんなるストーカーだと知った夜だった。

(了)

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