捜し物
名探偵目黒考次郎の前には服を脱いだ貴婦人がいた。
「これを探してほしいのです」
女性の胴体はバストから下がなく、見通しのいい空間を挟んで、腰に続いていた。まるでよくできた医学標本だ。
「失礼」
奇術かなにかだと思った目黒は腹のあたりを手でさぐり、顔をしかめた。
「どこへ行ったんです」
「わかりません」
「古来」
と目黒は言った。
「人がいなくなれば神隠し、人が人でなくなれば狐憑き、しかし、人のパーツがなくなるというのは……あ」
「なんですか」
「だるま落とし」
「はい?」
「ならば」
と目黒は女性の頭を押した。カチッと音がして、女性が縮んだ。
「これが正解」
「ひーっ」
と女性が泣き出した。
カンッ。
腰が消えた。
「誰が、誰が、なくす手伝いをしてほしいと言いましたか」
カンッ。
「きゃあああ」
カンッ。
なにもなくなった空間に向かって目黒考次郎は言った。
「きっと、今頃、向こうの世界にぜんぶそろってますよ」
(了)
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