とうちゃんの発明

「とうちゃん、釣りにいこうぜ」
「よし、じゃあ、新しく発明した糸を使おう」
「とうちゃん、発明なんてできるの」
「バカにするんじゃねえ。けっこうハイテクだぞ、この釣り糸は」
「どこが?」
「それは使ってのお楽しみだ」
 ふたりでいつもの茅ヶ崎の堤防に出掛けた。
 エサをつける。
 竿を振り上げた息子に注意した。
「思いっきり投げろよ」
「わかった」
 ひゅん。エサをつけた釣り糸が沖に向かって飛んでいった。
「とうちゃん」
「なに」
「どこがハイテクなのか、ぜんぜんわからないよ」
「伸びてるんだよ」
「えっ」
「どんどん細長く伸びていく糸なんだ。な、これなら、そうとう沖まで行くぞ」
「なるほど。あ、当たりが来た」
「よーし。リールを巻け」
「……」
「どうした」
「巻いてるけど」
「うん」
「負けてる気がする」
「なにが」
「糸、伸びるんでしょ?」
「うん」
「魚、どんどん逃げてるよ」
「あー」
「この糸、どこまで伸びるの?」
「とりあえずこいつは放流して、ふつうの糸でやりなおそうか」

(了)

お気に召しましたら、スキ、投げ銭をよろしくお願いします。

ここから先は

78字

¥ 100

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。