デジタルコピー

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「社長、買ってきましたー」
「おっ、ご苦労さま」
「めっちゃ、重たかったです」
「運んだのは私らですけどね」
 後ろから三人の若手社員がでっかい箱を神輿のように担いで入ってきた。
「最近のプリンタは小さいんじゃないのかね」
「これは」と秘書の玲子が得意そうにいう。「デジタル複合コピー機なんです!レーザーで、コピーにも印刷にもスキャンにも使えます!」
「え、安いインクジェットプリンタで十分だって言っておいたじゃないか」
「三万円ですっ」
「それは安いかも」
「なんでもダビテン特売とかで」
「とにかく組み立てよう。はやく会議用資料を作らなきゃいかん」
 わらわらと社員が集まってきた。
「よし、できたな。じゃ、印刷してみるぞ。玲子くん、会議の出席者は何人だっけ」
「たしか十人かと」
「経理部の福竹君も加えてくれ」
「それはご勘弁ください」
「なんだね」
「このコピー機、最新のデジタル対応なもんで、ダビテンなんです」
「よくわからんが」
「九枚目まではふつうにコピーできるんですが、十枚目をコピーすると元の資料が消えます。十一枚以上はコピーできません。だから会議の出席者は十名までに絞ってください」
「嘘だろ」
「じゃあ、やってみましょう。カラーコピー、十部にセットします」
「うむ」
「十枚のコピーが出ました」
「おお、美しい」
「はい。蓋を開けると」
「わあっ。ほんとだ。原本が消えてるぞ」
「この部分が技術的に一番難しかったそうです」
「しょうもないことに技術力を使いおって」
「社長ーっ、たいへんです。サーバにつなぐLANケーブルが不覚にもダビテンでした。ファイルが九回以上コピーできません」
「しゃっちょー。たいへんですたいへんです。タイムカードがダビテンでした。月に九日以上働けません」
 社長はついに激怒した。
「わかった。本日をもって我が社のOA化は廃止する。書類はすべて手書き。パソコンなんか捨てちまえ。複写はすべて輪転機を使う。部内ではプリントごっこを使う。なに、プリントごっこはもう生産してない? 中古でもなんでもいいから買い占めろ」

「玲子さん、なんだか原始時代に逆戻りしたような気分ですねー」
「そーねー。でも、よかったんじゃないの。よその会社はデジタル機器の購入費が急騰して倒産したりしてるみたいじゃないの。ダビテン不況だって」
「ははは」
「笑いごとじゃないけどね」

(了)

ここから先は

20字

¥ 100

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。