会社がいっぱい

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「経営戦略企画会議っていうの、もうやめません?」
 と大文字長治郎は会議の席上で言った。
 ブチョーが例によって気色ばんだ。
「君はなにをいっておるんだ。自分の存在を否定したいのか」
「いえいえ。ただ、ここにいるのは、ただの下っ端じゃないですか。ブチョーを除いて」
「君も最低限の言葉遣いは覚えたようだな」
「そんなメンツで、経営戦略だなんて笑っちゃいますよ」
「じゃ、どうするんだ」
「ちょっと儲けたろか会議、でいいんじゃないですか。どうせ考えるのはそんなことでしょう」
「ま、そうだが。なにか儲けるアイデアはあるのか。それが通ったら、君のいうとおりにしてやろう」
「会社をもうひとつ作るというのはどうでしょう」
「どうやって人件費を減らすか考えている時になんてことを言うんだ君は」
「人は増やしません。オフィスも借りません」
「なんだと」
「人間の集中力はそんなに長持ちしないといいます。ぼくなんかせいぜい三十分です。だったら、八時間も働く必要はないじゃないですか。午前と午後で違う会社にしちゃいましょうよ」
「……」
 長治郎がいつも無茶苦茶なことをいうせいでブチョーは思考不能に陥り、経営陣は喜んでしまうのだった。
 会社はどんどん分裂し、いまや、五つの会社が同時並行で動いている。勤務時間もフレックスになったので、誰がどの会社の仕事をしているのかよくわからない。
 ひとりの人間がたくさんのタスクを抱え、ぶつかり合うことで意外性のあるアイデアが生まれ、全部の会社が収益を上げ始めた。
 ブチョーは驚いて、定例会議の名前を「ちょっと儲けたろか会議」に変更してくれた。
 しかし、じつをいうと、この結果に一番驚いているのはデタラメを言ってその場をしのごうとした長治郎なのだった。

(了)

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