雪。雪。雪。雪。家。人。犬。雪。雪。雪。雪。
　みたいな村で育った。
　高校を出た私は都会に出て、それから一度も村に戻っていない。
　人の内訳は、じいちゃん、ばあちゃん、それに父母だ。
　苦労して育てて、ある日ぽっと蒸発するように消えてしまった息子のことを村の家族はどう思っているだろう、なんてことを考えたのは、自分に子供ができたと知ったときだ。
　柄にもないことを考えなきゃよかったのだが、私は同棲相手と結婚し、子供が生まれたのをきっかけに故郷を訪ねることにした。
　村へのバス路線はとっくに廃止になっていた。
　村への道は、アスファルトがひび割れ、すっかり自然の一部に戻っていた。
　私は駅前の小さなホテルに妻と息子を置いて、獣道を辿った。
　着かなかった。着かなかった。生家ははてしなく遠く、春のはずなのにいつしかあたりは真っ白で、犬が吠えた。
「ボス……」
　ボスはぺろぺろと私の顔を舐めた。
　家はそのまま、そこに建っていた。
「おかえり」
　とかーちゃんが言った。
　若い。つーか、家を出たときのままだ。
　じいちゃんもばあちゃんも。とーちゃんも。
「ひさしぶり。何年もごめん」
　と私がいうと、みんなは変な顔をした。
「なにをいうとんじゃ？」
　私は鏡に映った制服姿の自分を見た。
　未来とは私のことで、私がいなくなったことで、ここは時を止めていたらしい。

　雪。雪。雪。雪。家。人。犬。雪。雪。雪。雪。
　みたいな村が、ふたたび時を刻み始めた。
　私は将来、また彼女と出会うことができるだろうか。

（了）

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