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「罠の戦争」第六話感想「ラスボスに王手か。幹事長の謎に迫る」

幹事長の重み

 岸部一徳が嬉々として鶴巻幹事長を演じている。
 岸部一徳は1947年(昭和22年)生まれの76歳。ザ・タイガースのベーシストとして活躍し、俳優に転じている。1975年に『悪魔のようなあいつ』に出演して本格的に役者に転身した。1990年には『死の棘』で日本アカデミーの最優秀主演男優賞も獲る主演俳優であったが、私が観始めた頃には名バイプレイヤーとして名をはせていた。
 「探偵物語」や「港町純情シネマ」あたりで目にして、がっつり見たのは「相棒」の小野田公顕役である。奇しくも幹事長であった。私にとって岸部一徳といえば幹事長である。
 話が逸れっぱなしだが、「相棒」が弱体化したのは、小野寺幹事長が退場したあたりである。主役の水谷豊と対抗できるだけの重みのある人がいなくなってしまったからだ。とはいえ、岸部一徳もこのドラマだけに時間を割くわけにはいかなかったのだろう。年齢を重ねて燻し銀の演技をする岸部一徳はドラマにおいてそのくらい重要な役割を果たす。
 そして今回の鶴巻憲一である。鶴巻幹事長は第一話の冒頭のパーティから登場している。最初から重鎮感が半端なかった。最大派閥を率い、民政党を牛耳っている役だ。
 一言でいえば「悪いヤツ」なのであろう。「性格のいいヤツは政治家なんかやってないよねえ」というセリフもあったし、腹心の部下である鴨居ゆう子大臣もあの人は弱い立場の人のことなんか考えていないと言い切っている。
 いい人のふりを見せない悪人というのは演じ甲斐のある、逆にいえば、とても演じにくい役なのだろう。仕草のひとつひとつに権力を匂わせないといけない。
 鶴巻幹事長の早口は聞いたことがない。ゆっくりと喋る一言一言に重みがある。
 第六話で鷲津亨は鶴巻幹事長に立ち向かっていく。

鶴巻幹事長の謎

 鶴巻幹事長の弱みを握れ。それが鷲津チームの最重要課題となる。幹事長は毎月第一、第三月曜日だけは予定を入れずに午後六時に姿を消す。民政党の中ではよく知られた話だが、その秘密に近づこうとして何人もの代議士が潰された。蛍原と蛯沢のコンビが尾行してバレ、亨は幹事長に説教を喰らう。亨は首になることをなんとも思っていないので、平然と次の月曜日にも尾行を開始する。
 これまでも描かれてきたように鷲津チームはかなりポンコツである。週刊誌記者の熊谷由貴の協力を受け、ようやく尾行は成功。幹事長の行き先は医者の自宅だとわかる。しかし、話はそこまで。体調不安をネタに幹事長に面談に及んだ亨は「月に二回。チェスを打つ仲間なんだよ」と切り返される。
 幹事長には深い闇がありそうだというニュアンスだけで六話は終わる。この謎は最終話まで持ち越されるかもしれないし、スピード重視の展開だからあっと言う間に暴かれるかもしれない。個人的には最大の謎であってほしいが(岸部一徳には最終話までがっつり絡んでほしい)。

第六話のキーマン

 亨が強い感情をぶつける相手がキーマンだとすると、第六話のキーマンは鶴巻幹事長ということになる。亨と鶴巻幹事長の息詰まる駆け引き。どちらも引かない。亨は啖呵を切る。
「なくすのが怖いのは家族だけ。それ以外に惜しいものなんて私にはないんですよ」
 本音をぶつけると、幹事長は「若いな。まだ君はわかっていない。権力というものが」とかるくいなす。
 家族に手をつけていないのは、まだ本気ではないという脅しだろうか。
 これまでの敵、虻川、犬飼父子は亨が本気を出すとあっさり潰れていったが、これからはそうはいかない。物語も中盤を超え、ギアチェンジした印象だ。これからは新しい登場人物はあまりなく、現在出ている人中心の葛藤になるのではないか。
 気になる関係性をいくつか記録しておこう。

蛍原の謎

 第六話では秘書の蛍原梨恵が妙な動きを見せた。蛯沢の兄の陳情を亨が受け付け、多忙に紛れて流してしまった証拠の書類を隠していたが、それを亨に見せ、事実を告げたのである。
 しかし、これ、ほんとに事実なのか。亨は「全然記憶が……」と言っているし、蛍原は「私も最近思い出したんです」と語っている。異常な記憶力だけが亨の武器。その亨が覚えていないものを蛍原が記憶しているのが怪しくて仕方がない。
 蛍原はひょっとして亨の記憶を書き換えようとしているのではないか。蛍原と亨の接点は、秘書官として一緒に働いてきたという描写しかなかったが、過去に遡るとなにか出てくるのかもしれない。
 ずっと味方として描かれてきた蛍原と蛯沢だけに、今後波乱の展開があるとしたらこのふたりだろう。

鷹野聡史と鴨居ゆう子

 友人設定の鷹野聡史は民政党副幹事長の要職にある。幹事長の使いっ走りであり、反抗心を持っているのかどうかは謎だ。警察官僚に顔が効き、亨に捜査に圧力を加えたのは永田町の住人だと伝えたのは鷹野。亨を永田町の住人に呼び込んだのも鷹野。
 鷹野の立場からすると、警察に圧力をかけたのが幹事長だと知っていた可能性が高い。しかし、そのことには口を噤んだ。亨と幹事長を闘わせて漁夫の利を狙っているとしか思えない。上昇志向の強い人物だと描かれているので、幹事長か総理大臣の椅子を狙っていてもおかしくはないのである。亨は永田町において「代議士なんかいつ辞めたっていい」という唯一の特異点であり、利用価値は高い。
 もうひとり鶴巻幹事長の腹心がいる。鴨居大臣である。初の女性総理となって、女性の活躍できる社会を作ろうと思っている。亨の選挙にも積極的にかかわり、支援してきた。総理は無能、幹事長は権力欲の塊として描かれ、政治家としては唯一の「いい人」であった鴨居ゆう子が今回、総理大臣の介入により、事件の核心人物であることが暴露される。
 あまり描かれてこなかったが、鷹野副幹事長と鴨居ゆう子大臣は将来的に総理の椅子を狙うライバルになる関係だ。

可南子と鴨居大臣

 可南子は鴨居大臣に紹介されたNPO法人で働き始める。乱入してきたDV男を鴨居大臣が言葉だけで治めるシーンに遭遇し、「尊敬の眼差し」を向ける。幹事長の謎をさぐるというスパイ的な側面もすっかり忘れた有様。
 六話ラストで事件への鴨居大臣の関与が暴かれたが、可南子の鴨居大臣に対する気持ちはどう変容していくのか。敵方に回ってしまったが、嫌いきれないというのが本音ではあるまいか。このふたりの関係性も注目に値する。

ほんとは実力者?

 主要人物でまだ表にあまり出てきていないのが、竜崎始総理大臣と政策秘書官の猫田正和である。強い竜と勝手気ままな猫の組み合わせ。
 これまで猫田が総理の意を受けて亨の選挙戦の邪魔立てをしてきた。今回は総理自らの力で幹事長室を映した防犯カメラ映像を亨に見せる。
 ゆっくりと牙を剥いてきた竜崎、猫田チーム。お飾り総理扱いだが、意外と邪悪な存在かもしれない。これから一度くらいはキーマンとして登場するのか、ずっと脇で終わるのか。竜崎はともかく猫田の動向がとても気になる。
 知恵を出すという点では、鷲津亨と猫田正和が二大巨頭のような気がしないでもないのである(根拠は主に顔付きから)。

「罠の戦争」公式ページより

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