探偵の秘密

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 私立探偵はフリーランス。
 どこへでも出かけていくし、どこからでも電話がかかってくる。便利屋じゃないんだと言いたくなるものがほとんどだが、深刻な相談事もある。
「とにかく来てほしい」
 と言われて三十分後、目黒考次郎は閉園後の上野公園にいた。
「目玉のパンダがいなくなってつらいですねえ」
 とお愛想をいうと、
「それなんです」
 と相手は肩を落とした。
「パンダよりも話題になりそうな超大物が入ってきたんですが」
 といって、主不在のはずのパンダ厩舎を指さした。
 そこでごろんと寝そべっていたのは、あまりの可愛らしさで刑務所をひとつ崩壊させてしまった猫人間、渡辺優司だ。
「げっ。こいつですか」
「私はヒトを展示するのはどうかと思うんですがね」
 と責任者がいう。
「経営陣は半分猫だからいいんだって」
「それはどうでもいいですがね。ただ、こいつ、見かけと違って凶暴ですよ」
「厩舎自体が頑丈な造りですから、外部は安全なんですが、いかんせん、飼育係がおかしくなってしまうんで」
「やはりそうですか」
「猫使いの目黒さんならと白羽の矢が立ちまして」
 おれは猫使いじゃないと言いたかったが、お金になることに関しては否定しない主義である。
「おい、渡辺。メシだ」
「また猫まんまかよ。ふざけんな」
「猫ってことで展示してんだから仕方ないだろ。パンダの着ぐるみでもするか。それなら竹をやるぞ」
「うるせーよ。いつまでこんなことやってんだ」
「いま刑務所を作り直しているそうだ。全部ロボ“ットで運営できるようなハイテクなやつ。それが完成したら移してやるよ」
「一日中見られるってのは疲れるんだぞ。晩酌くらいもってきやがれ」
「おまえ、酒飲むのか」
「またたびに決まってるだろ。ほーら、おまえはまたたびがやりたくなるー」
「バーカ」
「なんであんたには誘惑が効かないんだ」
「おれも8分の1くらい猫の血が入ってんだよ」

(了)

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