文藝鼎談

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「お時間となりました。ただいまから藤堂賞の選考を始めたいと思います。司会はわたくし、月刊文藝の藤堂がつとめさせていただきます」
「いよっ、さすが藤堂」
 全身小説家のかかざるをゑんが言った。
「その臆面のなさが藤堂だな」
 絶対小説家の〆切厳守が茶化した。
「だいたいこれはなんの賞なんだ」
 相対小説家の竹馬乗馬がまじめな顔で質問した。
「藤堂賞は、藤堂の気に入った小説を表彰するための賞でございます」
「あんたが自分でやれよ」
「わたくしのような若輩者が文学賞の創設などとんでもない、と怒られまして」
「そうそう。このひとこっぴどく怒鳴られていてさあ。面白そうだからぴたっと横に張り付いて聞いてやったのよ」
 とかかざるをゑんがうれしそうに言った。
「あんたが書かないわけはないわな」
「あの『藤堂賞』はよかった。小説をいい小説と悪い小説に分ければ、の話だが。しかも面白かった。小説を面白い小説とつまらない小説に分ければ、の話だが」
「いちいち面倒くさいぜ、竹馬さんよ」と〆切厳守が言った。「面白きゃ面白いでいいんだ」
「わかったわかった。じゃあ、手っ取り早く済ませてしまおうぜ」
「第1回藤堂賞の最終候補はこの一編でございます。藤堂砂夫の『藤堂日記』」
 と藤堂が言った。
「わはははは。冗談かと思ったらホントだったのか」
「これで『藤堂賞始末記』が書けるわね。あたしはいいわよ」
 とおゑん。
「おまえさん、これがホントに小説だと思っているのか」
「もちろんです。応募総数、百三十四編の中から選び抜いた最終候補でございます」
「本人が小説だと思っていれば小説だというのがオレの主義だ。オレも賛成」
 と〆切厳守。
「二人が賛成ならもうワシがなんと言おうともう決まりじゃないか。反対したって二対一だもんな。よし。それなら相対的に賛成する」
「はい。決定いたしました。それでは第一回藤堂賞受賞作は、藤堂砂夫の『藤堂日記』ということでよろしいですね」
「ちなみにこれ、最後が空白になっているのはどういう意味だ?」
「もちろん、この鼎談がラストに入るのです」
「じゃ、わたし、藤堂さんと結婚する」
「えっ」
「そうすれば藤堂おゑんになるから、第二回の受賞はあたしのものよ」
「ずるいなあ。おまえさん、男色の気はないのかね」
「修練しておきます」
「上品か下品かに分ければ、この鼎談は」
「いいよおまえさんの分類はもう」

(了)

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