ギラギラ

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 AとB、ふたりの男がいた。どちらもろくでなしで、貧乏で、ねぐらもない。
 なんとかしなきゃ死んじゃうよなあ。ああでもないこうでもないと妄想を膨らませ、やがてAがなけなしの金をもって名刺屋に入っていった。
「できたかい」
「あっという間だよ。住所は図書館だけど、携帯番号はほんものだから、これでいいだろ」
「うん。これでいい」
「こんなので騙されるかね」
「さあなあ。ま、騙されなくても損はないし。行くか」
 ふたりは新宿の雑踏に出掛けた。
 なるべく貧相な感じの三十代を狙って声をかける。
「にいさん、家族ほしくない?」
「え?」
「勧誘とかじゃないから。オレ、変な能力があってさ、人の出会いがわかるんだよ」
「……」
「あんた独身でしょ」
「ああ」
「今日、出会いが三つある。機会は三回。絶対、逃がしちゃいけないよ。それ逃すともうあんたに家族はできないから」
「……」
「もしいい縁があったらここに電話してよ。仲人してやるよ。じゃあね」
 あとは黙って待つだけ。
「びっくりするよな」
「おまえもか」
「だって、口上終えたとたん、目がギラギラしだしてよ。ありゃあ、ナンパしまくるね」
「プラシーボ効果かね」
 AとBの電話はウソのように鳴りだした。相手は感謝の言葉を述べ、勝手に口座名義を聞いて礼金を入れてくる。ほんとに仲人を頼んでくるやつさえいた。
「これって、詐欺なのかね」
「どんな詐欺だよ」
「イケイケ詐欺」
「ははは」
 そう言っている間にも金はどんどん貯まっていく。
「オレも結婚したくなってきたなあ」
「無理だね」
「なんで?」
「目がギラギラしてないよ」
「そりゃ無理だって。プラシーボ、効かねえもん」
「オレたちについてくるのはせいぜい金目当ての女くらいだろうな」
「世界で一番不幸な気がしてきた」
「だれかオレたちを詐欺ってくれねえかなあ」

(了)

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